ビッグモーターの不祥事に考える、上場会社の事件・事故後に株は買いなのか?

最近、中古車販売会社ビッグモーターの不祥事が話題を集めています。さまざまなメディアが毎日のようにこの件を取り上げていますから、大半の人は耳にしたことがあるでしょう。保険金の水増し請求に端を発し、パワハラや店舗前の街路樹への除草剤散布など、次々と新たな疑惑が発覚。8月23日には、同じく中古販売を手掛けるグッドスピードに保険金水増しの疑惑が浮上するなど、まだまだこの問題は尾を引きそうです。


事故は買い、事件は売り

ビッグモーターの件について、ある著名人が自らのSNSに次のような内容の書き込みをしていました。「この不祥事を事前に知っていて、マスコミに報じられる前に株を売っていたら、大儲けできたんじゃないか」。ここでいう「株を売っておけば」とは、信用取引の空売りのことでしょう。「空売り」とは、株価が下がることで利益を得ることができる株式投資の手法の1つ。この著名人は、「何らかの方法で不祥事の情報を入手し、不祥事が発覚する前にビッグモーター株を空売りしておけば、莫大な利益を得ることができたかもしれない」と主張したかったのでしょう。もっとも、ビッグモーターは未上場会社なので、空売りは不可。もちろん、買うこともできません。

では、上場会社が何らかの不祥事や事故を起こした場合、株価はどうなるのでしょうか。株式相場には、「事故は買い、事件は売り」という格言があります。この格言は、たとえば工場火災といった突発的な「事故」の場合、一時的に株価が下がったとしても、業績には一時的な影響しかありません。そのため、株価が下がった時点で買えば、その後の反発が期待できます。一方、違法性のある「事件」の場合、「その事件によって営業活動がしづらくなるほか、場合によっては会社の存続自体が危ぶまれる可能性がある。そのため、反発を狙って買うのは止めた方がいい」という意味になります。

この相場格言の核心は、事件にせよ事故にせよ、それが業績にどう影響するのかということです。株価は、短期的には株式の需給関係(売りと買いのバランス)によって動きますが、長期的には業績に収束するもの。仮に、業績が問題発覚から数年間低迷するような内容であれば、株価が反発するには時間がかかるでしょう。

オリンパスの株価は不正発覚後10倍以上に値上がり

かつて、富士通や日立、NECなどと並んで電機メーカーとして名を馳せた東芝。2015年に大規模な不正会計が発覚し、株価はおよそ1年で3分の1程度に下落しました。この東芝のケースでは、株価低迷が長期にわたり、確かに「事件は売り」の格言通りと言っていいでしょう。その後、同社は米国の原子力子会社の経営破綻によって1兆円超の巨額赤字を計上するなど業績が低迷。2017年には東証1部から2部に鞍替え降格されました。

2011年に大規模な不正会計が発覚したオリンパスのケースではどうでしょうか。同社は10年以上に渡って損失を隠し続け、2011年には粉飾が露呈。株価は暴落しました。一時は上場廃止の可能性も指摘されましたが、経営陣の一新など思い切った改革が功を奏し、株価は徐々に上昇。2012年以降はアベノミクス相場の効果も加わり、株価は約10年間で10倍以上に値上がりしました。粉飾決算が発覚して株価が急落した直後の底値を買えていて、さらにその後10年間保有できていれば、資金は30倍ほどに膨らんだことになります。しかし、上場廃止の噂が出ても売らずに10年間も持ち続けるのは、あまり現実的ではないでしょう。

2000年以降、エアバッグの不具合が発覚し、大規模リコールを余儀なくされた自動車メーカーのタカタや、債務隠蔽の粉飾決算が発覚した化学メーカーのカネカ、燃費不正が発覚したスズキや三菱自動車など、多くの上場企業の不正や不祥事が発覚しています。ここで挙げた例では、その後倒産したタカタを除けば、事件発覚から1か月~2年ほど株価が低迷した後、株価は反発しています。

結局は業績がモノを言う

ここで1件、不祥事発覚のダメージが長期にわたって続いているケースを紹介しましょう。2018年にシェアハウス向けの不正融資が発覚したスルガ銀行です。同行は、不動産投資のためのローン審査において書類の改ざんを繰り返すなど、不正を連発。この不正によって被害を受けた債務者が「スルガ銀行不正融資被害者同盟」を結成するなど、いまだに事件は解決していません。

スルガ銀行は財務基盤が強固で収益力も高く、「優良地銀」の1つに数えられていました。株価は不正発覚以前、2500円前後で推移していましたが、不正発覚後に暴落。2020年3月には、一時は300円を割り込む局面も見られました。銀行は信用力で経営が成り立っている側面があり、同行の業績は好転の兆しが見えるどころか、さらに落ち込んでいます。一度失った信用を取り戻すには、数年程度の時間では難しいということなのでしょう。

結局、不祥事が発覚した企業の株価がどうなるかについては、「その後の業績がどうなるか」という点に尽きます。事件後、一時的に業績が落ち込んだとしても、その後立て直すことができれば、株価は反発する可能性が高いでしょう。これは「事故」も「事件」でも同様です。ただし、株価反発の度合いについては、全体相場の動向もカギになりそうです。

事故や事件が発覚した後、1年、あるいは5年、10年先の業績をある程度見通すことができるなら、オリンパスのケースのように「事件でも買い」と判断することができます。もっとも、10年先の業績が見通せるのであれば、あえて不祥事が発覚した企業を狙う必要はないかもしれません。

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