【MLB】 エンゼルスの“賢い動き”が物議 浮き彫りになった制度上の欠陥

写真:トレードデッドラインの目玉からウェーバーへ...ガーディアンズ・ジオリト

デッドラインでは大補強を敢行し、オールインの姿勢を見せていたエンゼルスだったが、8月にまさかの大転落。すると、デッドラインからわずか1ヶ月にも関わらず、今季限りで契約が切れる6人の主力選手をウェーバーにかけ、白旗を挙げる事態となったのだ。

プレーオフの望みがもはや断たれたエンゼルスは高額のベテラン選手をウェーバーにかけることで、年俸を削減、あわよくば贅沢税のしきい値を下回ろうという狙いがあった。エンゼルスにとどまらず、プレーオフが絶望的なヤンキースがハリソン・ベイダーを、メッツがカルロス・カラスコをそれぞれウェーバーにかけ、年俸の削減を狙った。

この異様ともいえる光景は2019年に行われたルール改正に原因がある、と『ESPN』のバスター・オルニー記者が今回の「大量ウェーバー」についてまとめている。

ルール改正前では、8月中でもウェーバーを介して選手同士のトレードを行うことが可能だった。その最たる例が2017年にアストロズがジャスティン・バーランダーを獲得したトレードであり、MLB機構はシーズン終盤・プレーオフ直前に有効な補強が行なえてしまうことで、球団の本来の実力がプレーオフ争いに反映されないことを危惧。ルール改正に踏み切った。

新ルールでは、7月末のデッドラインが選手同士のトレードを行える本当の意味でのデッドラインとなり、8月中はウェーバーを介したアウトライト・ウェーバーからのクレーム以外で選手の移籍が行えないように改正された。

このルールは数年間にわたって機能していたものの、今年のエンゼルスらの「賢い動き」によってその抜け穴が見つかってしまった格好だ。

ルールが改正された2019年当時に比べると、当時は再建中だったチームの多くが力を付け、今年のプレーオフ争いは混戦模様だった。デッドライン時点では買い手に位置したものの、その混戦からシーズン終了1ヶ月を待たずして振り落とされたチームが現れてしまったというわけだ。そういうチームが年俸の削減に走るのは理に適っている。

今後も、エンゼルスにならって、8月下旬にスター選手をウェーバーにかける球団が現れるかもしれない。そうなれば、資金力のある球団が有利になり、当初ルール改正する際に懸念された不均衡が再び問題になってくる。

また、今回はガーディアンズがエンゼルスから3選手をごく少ない負担で獲得することができたように、プレーオフ争いに本来の球団の競争力とは別の要素が加わるのも、望ましいことではない。

窮状のエンゼルスが打った合理的な一手は、メジャーリーグの制度の思わぬ欠陥を浮き彫りにした形となった。

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