【WEC俺の相方“キャラ”紹介(2)プジョー編】ロイック・デュバルが放言高論「彼は喋りすぎ」「ナイスな悪ガキ」「ネバー・ハッピー」

 いよいよ9月8〜10日に迫ったWEC富士6時間レース。今年は多くのハイパーカー&LMDhマニュファクチャラーが日本初上陸ということで、このコーナーでは各メーカーを代表するドライバーたちに、自分のチームメイトを紹介してもらおう。その第2回はプジョー・トタルエナジーズ陣営だ。

 プジョーは昨年も富士にやってきたが、とりわけ話題となったのは“リヤウイングレス”のクルマの方だった。今年はドライバーにも、より注目していただきたい……というわけで、それぞれのドライバーを紹介してくれるのは、またまた日本のスーパーGT及びフォーミュラ・ニッポンで活躍したお馴染みの選手、フランス人のロイック・デュバルだ。93号車チームもまとめてご紹介願おう。

■「日本の人たちは彼を好きになると思う」

「まず94号車のドライバーを紹介するね。93号車のことは忘れて。ベストなメンバーは94号車だから(笑)」

 と、いきなりかますデュバル。では、94号車から行ってみましょうか。この94号車はデュバルに加え、レギュラーとしてはニコ・ミューラー、そしてグスタボ・メネゼスというトリオだ。しかし、既報のとおりミューラーは鎖骨骨折のリハビリ中で、今回はリザーブドライバーのストフェル・バンドーンが来日することになった。

 でも、せっかくなので今後のためにまずはミューラーのことを紹介してもらおう。ちなみに、ミューラーはスイス出身の31歳。母国のカート選手権で活躍した後、フォーミュラ・ルノー2.0、GP3、ワールドシリーズ・バイ・ルノーなどシングルシーターでキャリアを積んできた。そして、2014年にはスポーツカーやツーリングカーに転向。アウディのファクトリードライバーとして、長くDTMで戦った。

 また、DTMのかたわら2017年、2018年には世界ラリークロス選手権にも参戦。さらに、2019年からはフォーミュラEにも参戦するなど、“何でも乗りこなす”系のドライバーだ。WECには、2017年にGドライブ・レーシングからスポット参戦という形でデビュー。昨年、ベクター・スポーツからLMP2にスポット参戦した後、プジョーのレギュラードライバーとなった。

 そのミューラーはどんなキャラクターの持ち主なのか。

「ニコは、『スーパー・インターナショナル』なドライバーだ。日本語は含まないけど、世界中の言葉を話せるんだよ。日本語に関しては、僕の方がベター(笑)。でも、とにかく国際的なスイス人で、とてもいいヤツなんだよね。物静かで、リラックスしている。経験豊富で偉大なドライバーでもある。何年もDTMに出ていたしね。94号車の中では、すべてをイージーにしてくれる存在だ。また、彼はスポーツ好き。中でも、サイクリングが好きで、よく走っているよ」

 今年は日本でも大湯都史樹がトレーニング中に転倒して鎖骨を痛めていたが、ミューラーも同じような感じなのだろうか。まずは一刻も早い回復を祈りたい。

怪我のため、WEC富士戦には参戦しないニコ・ミューラー

 続いてデュバルが紹介してくれるのは、チーム最年少のグスタボ・メネゼス。メネゼスは、米・ロサンゼルス出身の28歳。カート時代は、アメリカだけでなく、アジアやヨーロッパの選手権に参戦し、その後、シングルシーターにステップアップ。米国のスター・マツダ・チャンピオンシップやフォーミュラ・ルノー2.0のユーロカップに参戦し、2013年にはドイツF3、2014年から2年間はヨーロピアンF3にもフル参戦している。

 また、F3にステップアップすると同時に、耐久レースのキャリアもスタート。途中、ラリークロスにも挑戦した。WECには、2016年、シグナテック・アルピーヌでデビュー。その後、レベリオン・レーシング、グリッケンハウス・レーシングを経て、プジョー入りしている。そのメネゼスは、やはりアメリカっぽいドライバーだとロイックは言う。

「彼は94号車の盛り上げ役だね。彼は本当にクレージーなんだ。間違いなく、日本の人たちは彼のことを好きになるよ。ドライビングスタイルもアグレッシブ。日本のファンの人たちは、そこも好きになるポイントだと思う。すごく面白いヤツだよ。ただし、ちょっと喋り過ぎなんだけどね(笑)。本当におしゃべりで、そこがアメリカンスタイル。でも、グスタボはまだ若いし、僕とニコはお兄さんという感じで接しているんだ」

94号車プジョー9X8をドライブするグスタボ・メネゼス

 そして、今回来日するバンドーンはベルギー出身の31歳。カートで頭角を表した後、F4ユーロカップでタイトル獲得。続いてフォーミュラ・ルノー2.0ユーロカップでもチャンピオンとなった。さらに、フォーミュラ・ルノー3.5でシリーズ2位となり、2015年にはGP2のチャンピオンに輝いた。GP2時代から、マクラーレンF1チームのテストドライバーも務めている。

 その後1年間、日本でスーパーフォーミュラに参戦して、マクラーレンから華々しくF1デビュー。が、そのレギュラーシートをわずか2年で失ってしまう。そこからフォーミュラEにスイッチ。2021-2022シーズンには見事タイトルを獲得する。同時にメルセデスAMGペトロナスF1チームのリザーブドライバーも務めた。また、WECやIMSAにも参戦。今年の富士は2021年のバーレーン以来のレースとなる。

「そうそう。プジョーでもうひとり決して忘れてはいけないのは、あのベルギー人。ストフェルだよ。彼は間違いなく、他のベルギー人と同じように、“フレンチフライ”が好きだ(笑)。彼はF1にも乗ったし、経験豊富なドライバー。それにやっぱりいいヤツだよね」

 レギュラーとして出場していないため、ちょっと大雑把な答えだったが、そこはお許しを。取材時はミューラーが来日する前提で話を聞いてしまったもので……。

代役として2023年WEC第6戦富士に参戦するストフェル・バンドーン

■笑わない男と「マジでフレンチ」なJEV

 さて、続いてデュバルが紹介してくれたのは、93号車のドライバーたちだ。

 真っ先に名前が上がったのは、ポール・ディ・レスタ。こちら、説明するまでもないかもしれないが、スコットランド出身の37歳。ダリオ&マリノ・フランキッティの従兄弟としても知られている。ディ・レスタは、カートで数々の好成績を上げた後、フォーミュラ・ルノーでシングルシーターのキャリアをスタート、UKシリーズやユーロカップで活躍した後、2005年にF3ユーロシリーズにステップアップ。2006年にはチームメイトのセバスチャン・ベッテルを倒して、シリーズチャンピオンにも輝いている。

 しかし、ここでDTMに転向。こちらも着々と成績を上げていき、参戦4年目にはタイトルをものにした。そして、DTMでメルセデスとの関係があったこともあり、2011年からはフォース・インディアからF1にフル参戦。DTMからF1というのは、なかなか珍しい。2014年にはDTMにカムバック。2018年からはIMSAやELMS、アジアン・ル・マンなど、耐久レースへの参戦も開始した。WECには2019-2020シーズン、LMP2のユナイテッド・オートスポーツから参戦を開始し、昨年からはプジョー入り。前戦のモンツァでは、初表彰台を獲得している。さて、そんなディ・レスタは93号車の中でどんな存在なのか。

「彼が93号車ではキャプテンだね。彼はあまり笑顔を見せないし、あまり喋りもしない。つまり彼が口を開く時は、それが重要なことだから。でも、いいドライバーだし、ある意味ではイージー・ゴーイングなところもある。ただ、いつもネバー・ハッピー。絶対にハッピーになるってことはないかな(笑)」

 確かに取材させてもらっていても、笑顔を見たことはないかも……。それに無口というのも間違いない。それは、チーム内でも同じなようだ。

93号車プジョー9X8をドライブするポール・ディ・レスタ

 続いて紹介してくれたのは、デュバルと同じフランス人のジャン・エリック・ベルニュ、略してJEV(ジェブ)。彼はパリ郊外のポントワーズ出身で現在33歳。何と父が持つカートコースで4歳からカートレースを始めて、輝かしい成績を収めた。ちなみに、このカート時代のライバルがフェラーリ499P陣営のジェームス・カラドだったりする。

 2007年には、シングルシーターのレースを開始。フォーミュラ・ルノー・キャンパスでデビュー戦から優勝すると、その後も大活躍。レッドブル・ジュニアにも選ばれた。さらに、フォーミュラ・ルノー2.0を経て、2010年には英国F3にステップアップしタイトルを獲得。同年には、GP3やフォーミュラ・ルノー3.5シリーズにもスポット参戦。着々とF1への階段を上っていき、2012年にはトロ・ロッソからF1に正式デビュー。3シーズンを戦う。しかし、そこでレギュラーシートは喪失してしまった。その後、JEVはフォーミュラEに転向。2017-2018シーズン、さらに2018-2019シーズンと2年連続でチャンピオンに輝く。同時に、耐久レースへの参戦も開始。WECには2017年、LMP2でデビューし、昨年からはプジョー入りしている。

 デュバルから見て、この同郷の後輩ドライバーはどんな印象なのだろう。

「JEVはプジョードライバーの中で最も難しい人物だと思う。すごく強い性格で、思っていることを直言するんだ。僕は彼のそういうストレートなところが好きだよ。だけど、中には面食らってしまう人もいるよね。彼はドライバーとして、非常に速い。と同時に、僕ら6人の中で、最もフランス的なドライバーだ。マジでフレンチ。気分の浮き沈みは結構激しくて、月にでも到達しそうにハッピーなこともあれば、逆に絶不調って時もあるよね」

 はたから見ている感じだとおっとりした感じに見えなくもないし、フォーミュラE時代のチームメイトであるアンドレ・ロッテラーといる時は、朗らかな顔しか見たことがないのだが、実は浮き沈みが激しいということのようだ。

93号車プジョー9X8をドライブするジャン・エリック・ベルニュ

 最後に紹介するのは、ミケル・イェンセン。デンマーク出身の28歳だ。カート開始は15歳と遅く、たった2年のカート活動を終えると、シングルシーターにステップアップ。ADACフォーミュラ・マスターズに参戦を開始する。ここで参戦2年目にはタイトルを獲得。2015年にはF3のヨーロピアン・チャンピオンシップに参戦したが成績は振るわず、2016年いっぱいでシングルシーターのキャリアを終えている。

 一方、F3の2年目には、耐久レースのキャリアもスタート。ELMSのLMGTEクラスに参戦を開始した。その後、ブランパンやADAC GTマスターズ、ル・マンカップ、インターコンインターコンティネンタルGTチャレンジなど、数々のスポーツカーレースに出場。2019-2020シーズン、2021シーズン、2023シーズンのアジアン・ル・マン シリーズ、また昨年のELMSでは木村武史のチームメイトでもあった。IMSAではLMP2クラスで最強・最速ジェントルマンのベン・キーティングとも組んでいた。WECには昨年プジョーからデビュー。ある意味、シンデレラ・ボーイ的な存在だ。サーキットで会ってもいつもにこやかだが、彼はどんな人物なのだろうか。

「ミケルはまだ少年っぽさがあって、恥ずかしがり屋のように見えるだろう。とてもいい笑顔を見せるしね。でも、彼はなかなかナイスな悪ガキだよ(笑)。性格もとても強いんだけど、チームのみんなが彼を気に入っている。一生懸命仕事をするし、人間性もいいんだ。また、何と言ってもチームの中で一番ルックスがいい。ベスト・ルッキング・ガイだよ。グスタボとミケルは若いから、ファッションも好きだよね」

 ディ・レスタ&JEVは、ミケルにとってはちょっとおっかないお兄さんかもしれないが、彼のニコニコ笑顔には、先輩たちももしかしたらメロメロなのかもしれない。

93号車プジョー9X8をドライブするミケル・イェンセン
ル・マン以降、特別カラーリングをまとって参戦を続けているプジョー9X8

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