若者向けの“戦争小説”ベストセラーに 作者は元高校教師「仕事終わりにスマホで書いて」

この冬公開の1本の映画。現代を生きる少女が、太平洋戦争末期の日本にタイムスリップし、助けてくれた青年に心惹かれていきますが、その人が特攻隊員だったという物語です。

若者の命を奪っていく戦争の不条理さも描いたこの映画。原作となった小説「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

おじいちゃん おばあちゃんも戦争を知らない世代に

2016年に出版され、シリーズ累計70万部のベストセラーですが、本格的に売れたのは、初版から4年も経ってからのことでした。

出版社も予想していなかった大ヒットに繋げたのは、ほかならぬ若者たちだったといいます。

作者の、愛知県に住む汐見夏衛さんです。

(小説を書いた 汐見夏衛さん)
「仕事が終わった後にスマホで書いていて、それがこんなことになるとは…」

実は汐見さん、以前は高校の国語教師でした。物語を書くきっかけは、生徒の戦争への関心の低さを授業で実感したことでした。

(汐見夏衛さん)
「今の高校生とか小・中学生にとって、戦争がすごく遠くて、おじいちゃん おばあちゃんも戦争を知らない世代そういう世代。そういう世代に対して(授業で)「戦争の話をやるよ」というと『悲しいからあまり読みたくない』とか、そういう反応をする子が一定数いる。
こうやって、怖いから見たくないっていうふうに忘れられていくのかなって思っていて、それに少しでも歯止めをかけられないかなと思って小説にした」

TikTokの15秒動画でベストセラーに

小説を書くことが趣味だった汐見さんは、初め、無料の小説投稿サイトで連載。
戦後70年に合わせ、2015年の8月に完結させました。

これがサイトを運営する出版社の目に留まって、翌年書籍化。まずまずの売れ行きでしたが、4年後の2020年、事態が急展開します。

(汐見夏衛さん)
「私のところにSNSで『どこに売ってますか』っていう質問が何件か来て、急にどうしたんだろうと思って。何年も前の本なのに、探してる子が何人もいるのはどういうことなんだろうと思って」

突然、汐見さんや出版社に、若者や書店からの問い合わせが殺到するようになり、ネットでは古本が高値で取引されるようになりました。

表紙が写っているだけであらすじもない。たった15秒の動画ですが、再生回数、実に420万回。若者たちが口コミで作品の評判を広げていたのです。

(汐見夏衛さん)
「出版関係の方もびっくりしていて、今の子たちは大人がポスターとかを作って広告したものよりも、同世代の子が純粋に勧めるのが、そんなに力があるんだな…と」

この反響には、出版社側も驚いたといいます。

(スターツ出版 担当編集 相川有希子さん)
「デビュー作だったので、5万とか10万とかは通常刷らない。出版から4年経って、TikTokで火が付いたのは、すごくびっくりしています。
私たちが発信するものではなくて、その子供たちが独自に口コミしていく、その力の厚さというのはすごいなと我々も感じた」

一人一人に人生があった

「日本はおかしい。戦争は間違っている」と、戦時中の人が言えなかった言葉を度々口にする主人公の百合。

タイムスリップで、現代人が過去に行くという設定は、若者に戦争を身近に感じてもらうためだといいます。

(汐見夏衛さん)
「戦時中の人が主人公で、戦時中の話をしたらやはり遠いと思う。身近に感じられない。歴史の教科書で見るのと変わらないような距離感になってしまうので、現代の自分たちと同じ世界で生きて、同じような経験をしてきた子が、戦時中に行ったらどういうふうにその戦時中の世界が見えるのか という形にすることで、感情移入しやすいお話になるかなと思ったので、現代の子を主人公にしようと」

Q:「明日もう飛び立ってお国のために散っていく、そんな感覚なんていうのは、知らないでしょうからね」

(汐見夏衛さん)
「歴史の授業で習うのはそこまで詳しくなくて、一人一人をクローズアップしているわけじゃないので、わたしも知覧の平和会館に行って、遺書とか日記を読んで初めて、一人一人に人生があったってをいうのを強く感じた」

作品の原点が、故郷 鹿児島県の知覧特攻平和会館。ここで、特攻隊員の直筆の手紙などを読んで、単なる歴史の出来事ではなく、一人一人に人生があったことを強く感じたという汐見さん。この体験が作品に繋がっているのです。

昭和と令和の“接着剤”に

(TikTok LIVE 8月13日)
「本日は生配信ということで多くの方にご覧いただいております」

8月中旬にはTikTokで、映画化を記念したライブ配信も行われました。

(小説を書いた 汐見夏衛さん)
「映像化したものを見てみたいというコメントをいただくことがとても多かったので、きっとその子たちが映画化されると聞いたら、すごく喜んでくれるだろうなと思って。

(視聴者からの質問)
「タオル何枚いりますか?」

(映画プロデューサー 西麻美さん)
「ハンカチじゃ足りないです。フェイスタオルぐらいは持ってた方がいいかな」

これもアクセスは2万人以上。7万以上のいいねがつけられ、今も作品の高い人気が続いていることを印象付けました。

Q:「僕らも戦争取材して戦争を何とか次の世代に伝えていこうと思っていますが、戦時中の昭和の初めのリアルと令和の時代、ここの間があまりにも距離がありすぎて、なかなかリアルを伝えるのが難しいなと思ったんですけど、その接着剤にこの本はなるかなと思った」

(汐見夏衛さん)
「感想の手紙とかでうれしいのが、この本を読んだことで、『学校の授業のときに、本のことを思い出しながら聞いたから、すごくわかりやすかった』と。
授業とかのときに勉強のときに思い出してくれる。自分から積極的に知ろうと思ってくれるのは、本当に書いてよかったなと思う瞬間」

映画の公開は、82年前の太平洋戦争開戦の日でもある、12月8日。若者に戦争の悲惨さ、平和の大切さを感じてもらうきっかけとしても期待されます。

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