連載[にいがた暮らしの小説家]<上>桜井美奈さん(新潟市在住)本気になった30代、ミステリーで開花 半数超の作品に雪が登場、ネットがあれば「新潟で書くことにデメリットない」

桜井美奈さんのお気に入りスポットは、紀伊国屋書店新潟店などの書店。明示していないが、「きじかくしの庭」の舞台は新潟だ=新潟市中央区

 新潟で暮らし、新潟で書く-。そんなスタイルを続ける新潟県内2人の小説家の人となりや、創作にまつわるエピソードを紹介する。(2回続きの1)

 とある高校の避難訓練中、全校生徒の目の前で、人気教師が屋上から飛び降りた。自殺かと思われたが、教室の黒板に書かれた文字で事態は一変する-。

 「私が先生を殺した」(小学館文庫)は、新潟市在住の小説家桜井美奈さんの最新作だ。複数の生徒らの語りから、事件の輪郭が次第に浮かび上がっていく。「私が書きたい学園物を、多くの人に読んでもらえる作品に仕上げたい。そう考えて、たどり着いたのが学園ミステリーだった」

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 新潟県長岡市出身。漫画家を目指していた長岡大手高時代、 少女向け漫画月刊誌に作品を2度、投稿した。評価は最低だった。「絵が下手で描くのも嫌い。でも物語は書きたい」。漠然と作家に憧れを持つようになった。

 2年生の時、新井素子さんのSF小説「星へ行く船」シリーズを図書館でたまたま手に取った。「こんな面白い話があるのか」。少女の目線で語られる一人称の文体に引き込まれた。

 17、18歳から小説は書いていたが本格的に取り組んだのは31歳の頃。「そろそろ本気を出さないと作家になれない」と考えた。

 当時、娘は4歳。まだまだ手がかかった。仕事を始めたばかりだったが、「書きたい」という熱意が勝った。午前5時起きで執筆して、子どもを幼稚園に送った後、また書いて。午後は仕事をこなした。

 少女小説を中心に多い年で短編6本、中編1本、長編2本を投稿するも、最終選考の手前で落選が続いた。気付けば37歳。「書くだけならお金もかからないし…」と投稿を続けていた2012年、「きじかくしの庭」で電撃小説大賞の大賞を受賞。デビューを果たした。

 ただ、デビュー作も、2作目も売れなかった。書き続けても本にできない時期があった。転機は21年の「殺した夫が帰ってきました」(小学館文庫)。ミステリー初挑戦で、17万部を突破する話題作となった。

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 新潟市で暮らして30年近くになる。モノがあふれる東京に憧れはあるが、インターネットさえつながればどこでも仕事はできる。「新潟で書くことにメリットもデメリットもない」と思っている。

 お気に入りスポットは、書店だ。新刊や自分の書籍が並ぶ文庫コーナーを確認。新作のタイトル決めに悩んだ時は、話題書の棚を眺めることもある。「自分の本を置いてくれる店を応援したい。なるべく書店で本を買い、できることは何でもしたい」

 雪国の感覚は、肌身に染み込んでいる。デビュー10年で11作を世に送ったが、その半数以上で雪が登場する。「言われてみれば、雪が降る作品が多い。冬になると雪が降らないといけないと思う部分はある」。作中の雪は、長岡ではなく、新潟市の光景をイメージしているという。「『雪が積もると1階が暗い』と描写しても、共感してもらいにくいので」

 現在は、次々と仕事の依頼が舞い込む。「作家になるのも、作家であり続けることも大変。売れなければ、状況は変わる」と意識している。

 「元気で書き続けて、多くの人に楽しんでもらいたい」。次は、どんな作品を読者に届けようか-。5年後、10年後を見据え、きょうもパソコンと向き合う。

(報道部・平賀貴子)

◎桜井美奈(さくらい・みな)1974年、新潟県長岡市生まれ。2012年、小説「きじかくしの庭」が第19回電撃小説大賞で大賞を受賞し、翌年デビュー。著書は「殺した夫が帰ってきました」「塀の中の美容室」など。

2023年5月に出版された桜井美奈さんの最新刊「私が先生を殺した」(小学館文庫)

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