互いに関心も愛情も向けない「仮面夫婦」。それでも何とか生活してきたけれど、子どもたちが独立して自分も年を取り、その間もずっと他人のような存在感だった夫/妻とはふたりきりの老後を迎えます。
関係に愛着のない配偶者と過ごす老後とはどんなものなのか、仮面夫婦のままやってきた人たちのリアルを実録で紹介します。
「子どもを産んでから私をいっさい顧みなくなった夫に愛想を尽かし、仮面夫婦になったのは息子が小学生の頃でした。
スキンシップも消えたため次の子どもを産むこともなかった私ですが、『それでよかった』と思えるのは教育費など子どもにかかる費用の大きさを実感したことで、子どもについてだけは会話のあった私たちは、一人息子を大事に育ててきたつもりです。
問題は子どもが進学で家を出てからで、息子が家にいるときと同じように食事の支度や洗濯などの家事を全部私に負わせる夫との生活は、息苦しいしストレスばかり溜まり、真剣に離婚も考えましたね。
お互いに正社員として働いていて息子への仕送りも折半、授業料も半分ずつ負担することは話し合いで決めていて、離婚すると息子に悪い影響が出ると思い耐えてきました。
そんな状態が変わってきたのは夫がバイクで事故を起こし入院したのがきっかけで、一応妻だしと人目を気にして毎日病院に通っていたらベッドに横たわる夫と自然に会話が増え、『迷惑をかけてすまない』と言われたときは耳を疑いました。
子どもが巣立って気弱になっているのかもしれない、と思うと私自身もそうで、弱々しい夫などそういえば初めて目にする新鮮さもあって、そこから世話をすることへの抵抗感が消えていった気がします。
夫の入院は手術を繰り返したため4ヶ月ほどでしたが、いま振り返れば『夫に逃げ場がない状態』で、変な感覚だけど世話をしている私が上のような雰囲気だったことも会話を助けてくれたのかもしれません。
夫がどう思っていたかはわかりませんが退院後も家では会話があり、少し介助が必要だったため食事も一緒にするようになり、気がつけば以前のような廊下で顔を合わせただけで胸が痛くなるようなストレスは消えていました。
こんな変化を喜んでくれたのが息子で、『正直に言えば離婚すると思っていたけど、仲良くなっていてびっくりした』と帰省したときに言われ、息子なりに心配してくれていたことも初めて知りました。
息子は大学を卒業して無事に就職し、今は結婚もして遠い県外にいますが、帰省したときは家族で話す時間が増えて、『できれば息子が家にいるうちにこうなりたかった』と思うときも多いですが、仮面夫婦から抜け出せたことは、老後を迎えた今はよかったなと感じています」(女性/65歳/小売業)
仮面夫婦になったきっかけが「私を女性でも妻でもないただの同居人として扱うようになった夫のせい」と話していたこちらの女性は、その夫の変化を目の当たりにして少しずつ気持ちが変わっていきました。
自分の存在を感謝されることで、重たくのしかかっていたわだかまりが溶けていくのかもしれませんね。
子どもが家を出れば老後はふたりきりになるからこそ、事故であってもふたりの関係が良い方向に転んだことは、迎えてもいい変化だと感じます。
(ハピママ*/ 弘田 香)