爪痕残る境内で早船狂言 新成人3人、稽古に熱

稽古に没頭する新谷さん(右)と小林さん(中央)=珠洲市蛸島町の高倉彦神社

  ●伝統つなぎ「蛸島に元気」

 珠洲市蛸島町で11日に上演される県無形民俗文化財「早船狂言」で、地元ゆかりの新成人3人が稽古に熱を入れている。舞台の高倉彦神社は5月の最大震度6強の地震の爪痕を残し、一時は上演を含む秋季祭礼の中止が検討されたが、祭りで地元を元気づけようと実施にこぎ着けた。3人は漁師町の伝統を引き継ごうと「被災した人たちの心を少しでも和らげ、復興を後押ししたい」と意気込む。

 早船狂言は200年を超える歴史を持ち、祭礼のクライマックスで演じられる。芸者に入れ揚げ、船を出すまいとあれこれ言い逃れする船頭を、艫(とも)取りがいちいち言い負かす筋書きで、口伝で受け継がれてきた軽妙な掛け合いが見どころ。これに狂言の由来を伝える口上人が加わり、上演は約1時間続く。

 船頭と艫取り、口上人の3役は新成人が務める習わしで、今年は金城大3年の新谷海斗(しんやかいと)さん(21)=白山市=が船頭、会社員の小林篤司さん(21)=野々市市=が艫取りを演じる。2人はともに蛸島町出身だ。

 口上人役は父親が蛸島町出身で、野々市市に実家がある山口大3年の山塚将矢(しょうや)さん(21)。早船狂言は少子化の影響で年々若手の確保が難しくなっており、近年は中高年の経験者が再出演することもあった。今年は山塚さんが口上人役を引き受け、習わし通り新成人3人で演じることになった。

 3人はほぼ毎日、境内の舞台で稽古を重ねる。5月の奥能登地震で神社の鳥居や石灯籠は崩れ落ちたままだが、7月に祭礼の実施が決まった。小林さんは「早船狂言は子どもの頃からの憧れの舞台だった。(地震で)上演があるかどうか心配だった」と振り返る。

 平日は仕事のため、週末に野々市から珠洲に向かい稽古に参加する小林さん。艫取りは大声を張り上げ、床を踏み鳴らして船を出すよう迫る。動作が大きく人気の役だといい、「地震に遭った(実家の)近所の人たちを元気づけるためにも、恥ずかしくない舞台にしたい」と気合を入れた。

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