社説:教員養成「地域枠」 就労環境の改善とセットで

 深刻化する教員不足の解消へ有効な一手となるのだろうか。

 各地の大学が教育学部に「地域枠」を設け、教育委員会と連携して教員を養成する取り組みを国が支えるという。地元で働く教員の確保を目指す。

 特定自治体の学校に勤務することを前提に学生を募り、大学の授業に学校現場での実習や見学を取り入れるなど、卒業後に即戦力となるカリキュラムを整える。教員採用試験では1次試験の免除も検討するという。

 教員の志願者数は全国的に減っている。採用試験の競争倍率は2000年度の13.3倍をピークに、23年度は3.1倍にまで下がった。京都市教委は6.4倍、京都府教委は3.7倍、滋賀県教委も3.3倍と、京滋でも低下傾向である。

 教員志望者が減り、優秀な人材が採用できなければ教育の質にも影響する。なり手の早期確保にとどまらず、能力と適性、意欲を兼ね備えた教員を養成する仕組みにしたい。文部科学省が必要予算を要求している。制度設計が注目されよう。

 地域枠は医師の偏在解消を目的に、医学部入試で導入が進んでいる。教育学部では少ないが、県内で教員を志望する人を対象に地域選抜枠を設けている千葉大や大分大、福井県嶺南地域での教員志望者に限定した枠を置く福井大などの例がある。

 ただ、医学部は卒業生の9割超が医師になっているのに対し、教育学部を出て教員になる人は6割にとどまる。

 教育学部の地域枠は、教員になりたいという学生たちの意欲を維持し、高めることができるかが鍵になる。

 22年度から教育学部に地域枠を設けた宮崎大は、1年生の時から学生が地元の学校を訪問したり、現役の教員が学生を教えたりする実践的なプログラムを取り入れている。こうした先行例を、地域の実情に即した教員養成カリキュラムづくりの参考にしたい。

 教員志望者の育成とともに急がなければならないのが、教育現場の就労環境を改めることだ。教員不足の背景には志願者の減少に加え、離職者の多さも指摘されている。

 文科省の22年度調査では、学校内勤務時間が週に50時間を超える教員は小学校で64.5%を占め、中学校では77.1%に達した。これらの教員は残業時間が月45時間を超えている。「学校はブラック職場」とされる実態が若者を遠ざけ、離職に拍車をかけている面は否めない。

 政府の中央教育審議会が先日まとめた緊急提言には、授業以外の業務を支えるスタッフの拡充や学校行事の精選などが盛り込まれたが、過去にも指摘されている内容が目立つ。

 学校現場からは「工夫で乗り切れる次元ではない」との声が強い。長時間労働や待遇の改善なしに人材確保はなしえまい。

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