「恨み」の本質、どこに 京アニ事件、5日に初公判 刑事責任能力が最大の争点

京アニ事件の公判が開かれる京都地裁

 36人が死亡した京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人や現住建造物等放火など五つの罪で起訴された青葉真司被告(45)の裁判員裁判が5日、京都地裁で始まる。多くのアニメーターの命を奪った凶行から4年余り。裁判では、被告の刑事責任能力が最大の争点となる。事件の背景にどこまで迫れるかが注目される。

 関係者によると、弁護側は被告が事件当時、心神喪失や心神耗弱の状態だったとして無罪や刑の減軽を主張するとみられる。一方、検察側は完全責任能力があったとみている。

 起訴状では、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京アニ第1スタジオに侵入。ガソリンをまいて放火して全焼させ、屋内にいた社員36人を殺害、32人に重軽傷を負わせたとしている。

 現場近くで身柄を確保された青葉真司被告は「小説を盗まれたから火をつけた」と話したとされる。以降、一貫して同じ趣旨の供述を続け、京都アニメーションへの「恨み」を口にしてきた。

 ただ、これだけの命を奪った動機としては不可解な点は多い。京アニ側も、青葉被告と同姓同名の人物が小説作品を応募したことはあったものの、形式面に関する1次選考で落選したとし、「類似の点はない」と全面的に否定する。

 過去には精神疾患と診断されたこともある被告。京都入りする前日には、さいたま市にある自宅アパートでトラブルを起こし、隣人に「殺すぞ。余裕ねえんだからよ」と10分近く罵声を浴びせるなどしており、情緒不安定な一面も垣間見える。事件当時の精神状態が行動や考え方にどう影響を与えたのか、公判で審理される見通しだ。

 一方、殺意や計画性をうかがわせる供述もしている。京都府警の逮捕時の調べに対し「ガソリンを使えば多くの人を殺害できると思った」「当初は包丁で襲うつもりだった」などと説明。現場に持参したとされる包丁6本は、事件の約1カ月前にさいたま市内で購入したとされる。ある捜査関係者は「犯行直前の行動を見ても、異常さは見当たらない」と強調する。

 青葉被告を駆り立てたものは何か。恨みの本質はどこにあるのか。法廷での解明が待たれる。

 

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