A.エスパルガロとビニャーレスが成し遂げた歴史的ワンツー。二人を結びつけた3年前のモーターホーム/第11戦カタルーニャGP

 バルセロナ・カタロニア・サーキットのチェッカーフラッグを、先頭でアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)が受ける。次いでマーベリック・ビニャーレス(アプリリア・レーシング)。アプリリアがロードレース世界選手権の最高峰クラスでワンツーを達成した歴史的瞬間だった。

 MotoGP第11戦カタルーニャGPの決勝レースは、赤旗中断による再スタートという始まりだった。最初のレースで、1コーナーで多重クラッシュ、そしてその後、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)がハイサイドを喫してコースに投げ出され、後方のライダーと接触。このアクシデントにより赤旗が提示され、レースは中断となった。

 バニャイアの救護活動とアクシデントによるオイル飛散の処理が行われたのち、約20分の中断でレースは再開された。このレースで、序盤にトップに立ったのはビニャーレス。2番手を走るエスパルガロとの差は1秒以上に開いていた。しかしレース後半、エスパルガロはじりじりと差を詰め、20周目1コーナーのブレーキングで、エスパルガロがインサイドにマシンをねじ込み、オーバーテイク。エスパルガロが優勝を飾り、ビニャーレスが2位を獲得したのである。2023年シーズン、大きな勢力で強さと速さを誇るドゥカティを寄せ付けぬ、素晴らしいワンツーだった。

 エスパルガロは表彰台で愛息マックスくんと愛娘ミアちゃんからトロフィーを受け取り、ともに表彰台に立った。エスパルガロがそっと目元に手をやる。その下では、アプリリアのスタッフたちが満面の笑みで拍手を送っていた。

「まだ夢を見ているみたいだ。この瞬間が現実なのか、そうじゃないのかわからないよ」

 エスパルガロは会見で、そのときの心境をそう振り返っていた。

アプリリアV.S.アプリリア。アレイシ「クラッシュするか優勝するかだ」

 エスパルガロは今週末のレースをチャンスだと考えていたという。高速コーナーの多いバルセロナ・カタロニア・サーキットは、アプリリア向きのサーキットである。アプリリア勢は初日からドゥカティ勢をしのぐ勢いだった。果たして、決勝レースはアプリリア同士の一騎打ちとなったわけだ。

「マーベリックは今日、僕を限界まで追い込んだ。昨日のスプリントはスムーズに乗れていてとても楽で、バイクを走らせていていいフィーリングがあったけど、今日は反対だった。本当にフィーリングが悪かった。風のせいでクリップにつけなかったんだ」

「マーベリックの強みはブレーキで、僕よりもうまい。彼はバイクをよく止めることができ、よく加速できた。彼を抜いた時、僕は20分くらいタイムアタック・モードに入っていたような感じだったんだ。ほかのサーキットだったらまず間違いなく2位だったよ。でも今日は、『クラッシュするか優勝するかだ』と思っていた。全力を尽くした。あのオーバーテイクは限界すれすれだった。1コーナーでは風がかなり吹いていたので、ストップするのが難しかったよ」

 会見場で2位の席、エスパルガロの右隣に座ったビニャーレスは「もちろん勝ちたかったけど、アレイシはほんの少し僕よりも速かった」と言ってから、「それはそれとして、本当にうれしいし、このバイクについても誇りに思うよ。本当に素晴らしい気持ちだった」と続けた。悔しさもありつつ、しかしビニャーレスはレースをリードしたことに大きな感慨を抱いていたようだった。

「レースをリードしているとき、『よし、僕の時間だ』と感じていた。信じられない気持ちだった。もう長いことレースで先頭を走っていなかったからね。レースをリードしていたときの自分の走りは、またトップを走れるんだ、という気持ちにさせたんだ」

3年前、エスパルガロがビニャーレスにかけた言葉

 二人のアプリリアライダーは、クールダウンラップでマシンを交換してパルクフェルメに向かった。エスパルガロはゼッケン12を付けたビニャーレスのマシンに、ビニャーレスはゼッケン41を付けたエスパルガロのマシンに。これまでの苦労を分かち合うように手を取り合い並走するシーンは、素晴らしく感動的だった。これを言い出したのは、エスパルガロだったのだとか。

「『バイクを変えよう』と提案したら、彼は『マジかよ』って顔をして僕を見ていたよ」とエスパルガロは笑った。

 そしてエスパルガロは、3年前、2021年のことを話し出した。ビニャーレスはそのとき、シーズン途中でヤマハを去り、アプリリアに移籍している。

「3年前、マーベリックがオーストリアで苦戦して、彼はすっかり落ち込んでいた。(アプリリアに来ることについて)彼は確証が持てなかったみたいだ。でも僕は彼にこう言ったんだ。『君はすごく強い。僕たちはバイクをトップに押しやるだろう』ってね。これはアプリリアや自分たちへのプレゼントみたいなものなんだ。信じてハードワークに取り組んだんだから。二人の強いライダーが一緒に取り組んだチームワークが報われたよ。今日の結果はロマーノ(・アルベジアーノ)、マッシモ(・リボラ)、ノアーレのみんなへのプレゼントだよ」

 ビニャーレスも、そのときのエピソードについてこう触れる。

「アレイシが言ったように、3年前、アレイシのモーターホームで僕たちは話をした。でも、僕は(アプリリアに行くかどうか)迷っていた。すごくいい契約がある状態で、そういう賭けをするのは難しい。でも最終的に、僕は自分に、アプリリアに賭けたんだ。もちろん、アレイシの存在も大きかった。さっきアレイシも言っていたけど、速いライダー二人なら、ひとりよりもずっと多くのことができるからね」

 歴史的なワンツーを果たしたカタルーニャGP。しかしエスパルガロは、ライバルとの差についてこう述べている。

「僕としては、まだライバルとの差はあると思う。ただ、カタロニアのようなサーキットでは、アプリリアはとても強い。でも、僕たちは成長している。歩みを止めることはない。クラッチについても取り組んでいるし、エンジンについても取り組んでいる。来週の月曜には、多くの新しいものにトライするだろう。今、アプリリアのライダーでいられてうれしい。アプリリアでチャンピオンが誕生するまで仕事を続けるよ」

 確かに、現状でアプリリアが常にドゥカティに匹敵するほど速いかといえば、まだそこまで至ってはいないだろう。エスパルガロ自身が語っているように、得意なサーキットとそうではないサーキットでアップダウンがあり、安定した結果を残せているわけではない。ただ、その二つの間の差が小さくなってきているのは確かだ。

 2022年のアルゼンチンGPで、アプリリアはエスパルガロによって最高峰クラスにおける初めての優勝を飾った。2022年の結果により、コンセッション(優遇措置)を失って挑んだ2023年は、イギリスGPで、やはりエスパルガロが今季初優勝を果たしている。だが、決勝レースで二人のアプリリアライダーが表彰台に立ったことはなかった。今回のワンツーは、ライダーを含めた組織的な尽力とその方向性が一貫しており、しっかりとRS-GPの改善につながっているのだという証明に見える。2017年から長くRS-GPを開発し続けてきたエスパルガロだけではなく、2位のビニャーレスも、そして一時は3番手を走って5位で終えたミゲール・オリベイラ(クリプトデータRNF・MotoGPチーム)も力強い週末を送ったのだから。

決勝レースはアプリリア同士の一騎打ち。エスパルガロが意地のオーバーテイクを見せた
アプリリアにとって初のワンツー。貢献してきたライダー二人がパルクフェルメで抱き合う
今季2勝目を挙げたエスパルガロ。カタルーニャGPを席巻した

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