Limited Express (has gone?) - 矛盾だらけが自分自身の真実であり"両A面"! バンドの勢いと意識が一丸となったフルアルバム『Tell Your Story』の進化と深化

楽しむことと怒りのどちらかを否定することはない、両A面なんだ

──去年(2022年)、今作にも収録されてる「No more ステートメント」、「R.I.P, friends」、「INVITATION」の3作連続配信シングルのリリースで、YUKARIちゃんに単独インタビューさせてもらいました(記事はこちら)。その頃、YUKARIちゃんは“たかが音楽”とか“ただの音楽”ってよく言っていて、その真意を聞きたくてインタビューしたんだよね。

YUKARI:そうでしたね。

──改めて、その思いというのを。

YUKARI:思ったのは、コロナ禍になって、「ライブをやる/やらない」「どういうやり方でライブをやるか」、そういうことを表明しなきゃいけないような状況があったじゃないですか。なんかおかしいなと。宣言して認められなきゃライブってできないの? そうじゃなく、もっと軽くていい、もっと自由なもののはずだって思ったんです。たかが音楽じゃないか! って。

──同時にYUKARIちゃんは社会の問題にも目を向けるようになりましたよね。

YUKARI:社会の在り方や特に女性の地位とかに対して「フォーメーション」[『Perfect ME』(2019年)]、「Live or die, make your choice」[『The Sound of Silence』(2020年)]を作った頃から徐々に意識が変化していって。楽しむことと怒り、どっちかを否定することはない、両A面なんだって。

──今作収録の「BET ON ME」には“矛盾の存在 両A面”という歌詞があるし、この曲はテーマ的に「フォーメーション」から繋がってますよね。

YUKARI:そうですね。繋がってます。両A面っていうのは去年の連続リリースの頃から考えていて、その考えに自信を持てるようになって作ったのが本作。

──どんどん吹っ切れていってる感じがします。吹っ切れていく過程が去年のシングルで、今作で到達した感。

YUKARI:そういう感じはありますね。

──YUKARIちゃんの歌いたいことが明確になって、バンドとしてもYUKARIちゃんの存在感がより前に出てますよね。

谷ぐち:そうっすね。なんかバンドっぽくなったというか(笑)。

──バンドっぽくなったし、対等になった。

谷ぐち:対等というと?

──えっとね、ボーカルが女性だから前に出すってことじゃなく、ボーカルとして当たり前に前に出てる。以前からそうだけど更にね。そしてバンドは演奏をがっちりやるっていう。

谷ぐち:あ、そうですね。今までのライブって単純に炸裂すればオッケー! って感じだったんで(笑)。それがだんだんとしっかり演奏をしようという意識に変わってきました。演奏やバンドのアンサンブルを固めることで、よりボーカルを出していこうと。

YUKARI:わたしは自分がピンボーカルになって、見る人はボーカルを真ん中において見ることが多いじゃないですか。そしたらパフォーマンスを派手にしたりして視線が向くような存在でいたいって思ってやってるから。たぶんね、メンバーがそれに負けじとやる感じになっていたんだと思う(笑)。メンバーで話したのは、ボーカルに負けないようメンバーも派手にしたいっていうのが行き過ぎて、演奏が後回しになってたんじゃないかって(笑)。

谷ぐち:まさにその通りで。こんだけ長いことバンドやってるのに、ボーカルが目立ってるから俺たちも目立ちたいっていう(笑)。

──子どもか!(笑)

谷ぐち:それで、俺たちって演奏が下手じゃね? ってことに気づいたんです(笑)。ちゃんと練習しようと。いや、練習はしてたんですけどね~。

──ライブとなるとテンション上がって。

谷ぐち:そうなんですよね~。ちゃんとやろうって意識はこのアルバムにも反映されてるんじゃないかと思います。少し上手くなってますし。

──ライブもそして今作も、バンドとしての勢いや意識が一丸となってるように感じます。たとえば…、「I don't TRUST」は途中から爆音になるかと思ったら音数少ないままやり切って。凄くカッコイイ。バンドの信頼感がこういうとこにも感じられる。

谷ぐち:アレはいろいろ試したんですが、違うな違うなって音を削って、最終的にあの形に。

──「I don't TRUST」の歌詞はYUKARIちゃんの怒りが炸裂して痛烈なメッセージとなっていて。だからこそ敢えて音は削って歌を前に出そうと?

谷ぐち:だいたいにおいて曲作りは(飯田)仁一郎とYUKARIと俺が元になるアイディアを持ってきて、けっこうな時間かけてアレンジしながら作っていくんですけど。「I don't TRUST」に関してはYUKARIがこういう感じで演奏してくれって言ってきて。YUKARIメインで作っていった曲です。

YUKARI:コンセプトや曲のイメージがあったから、もうアレしかないなって仕上がりです。いらないことはしないでほしかった。

──やっぱり言いたいことがハッキリあったから?

YUKARI:そうですね。あの曲は谷ぐちに対して怒ってる曲なんで(笑)。谷ぐちが弾くベースなんか聴きたくもなかったんで(笑)。

谷ぐち:音数少ないんで、ベースも弾かず黙って歌を聴かされるほうが気まずいです(笑)。

──リアル過ぎる(笑)。

YUKARI:今回のアルバムはわりと実話っていうか、自分の体験っていうか。そういう歌詞がほとんどなんです。ホントにあった物語、みたいな。

自分のことを歌っていいんだという気持ちの芽生え

──『perfect ME』は社会に目を向けてた感じがしたけど、連続配信シングルから今作は、私的というか個人的というか。もうね、感情に溢れてると感じました。

YUKARI:うん、そうですね。なんかね、自分のことを歌っていいんだっていう気持ちになったんですよ。以前は自分を露出するようなことはあんまりしたくなかった。

──昔は歌詞の言葉数も少なかったしね。

YUKARI:そうですね。以前は、もうね、歌わなくてもいい、歌いたくないっていう気持ちでしたからね。歌詞を歌いたくなかったんですよ。

──ああ、衝動的であっていいって?

YUKARI:衝動的でいいし、音楽において伝えることに意味を感じてなかったっていうか。以前はそう思ってたんですけど、だんだんと、「フォーメーション」、「Live or die,make your choice」を経て、今回はより私的な部分を出していて。世の中を見てはいるけどわたしの目を通した世の中。一個一個、わたしの中ではけっこう具体的なことがあって。それがベースにあります。

──かつては音楽にそんなこと持ち込むのは…。

YUKARI:野暮ったいなって思ってたんですよね。

──それが今作では、全部を含めて音楽になればっていう。

YUKARI:そう。「フォーメーション」の頃から少しずつ世の中とか周りとかを見たり、そこから感じることや考えることがあったり。なんていうか…、レベルミュージック的なことに対しての、興味なのかな。興味が沸いたし、自分もできるかなって思い始めて。音楽って楽しむためだけのツールじゃなく、何かを伝えるためのツールであってもいいかなって。それが両A面ってことで。そうやってできたのが最近の曲の流れで。そういうとこから作った曲が多いです。

──そう考えるとアルバムタイトルがより一層グッとくる。“私の話をしたから、あなたも話して”っていうことですよね?

YUKARI:そうですね。12曲あって一曲ごとジャケットのようにイラストがあって。12個のわたしの物語を紡いで、13個目に、誰でも自分の物語を入れてくれたらって、白いジャケットも入れて。

──いいですね~。

谷ぐち:去年、配信でリリースしたときに、ネットでもジャケット的なものがあるほうがいいし、3曲連続リリースするんだから1曲ごとにバナーを作ろうと。そのイラストはYUKARIが好きな人に頼みたいと。今回CDでリリースだから、1曲ごとにジャケットとしてイラストつけて。ブックレットにはしないで1枚ずつジャケットみたいに作って。7インチのシングルが12曲あるってイメージで。

──いいですね~。

谷ぐち:アルバムのタイトルと全体のコンセプトをYUKARIが出してきて。

──『Tell Your Story』、“あなたの話を聞かせて”ってことは、YUKARIちゃんが前から言ってることだもんね。ライブのMCで“帰れなくなったらうちにおいで”って言ってたし、「WELCOME TO MY HOUSE」[『The Sound of Silence』(2020年)]もそういう曲だと思うし、そして「INVITATION」に繋がっていったと思うし。

YUKARI:ホントそうなんですよ。自分が私的なことを歌うようになって、余計に、こう、人の話、みんなの話も聞きたいって。

谷ぐち:意外とYUKARIは聞き上手なんですよ。俺は人の話を聞いてなくていつも怒られるんですけど(笑)。

──YUKARIちゃんの変化によって、バンドにも変化が。

谷ぐち:そうですね。自然な空気感でそういうふうになったんでしょうね。バンドとしてどういった在り方がいいんだろうってメンバーがそれぞれで考える中で、YUKARIのキャラクターが確立されて立ってきたから、バンドはYUKARIの存在感や歌を伝えるような立ち位置にしようと。

──信頼し合ってる感じが凄く出てきてると思います。YUKARIちゃんがフロアに降りてもどこで歌っても全然OK、任せろって感じで。

谷ぐち:そういう感じにちょっとはなってると思います。

──メンバー個々の音はもちろん、動きもいい感じにアグレッシブになってるし。YUKARIちゃんも一層自由になってる。

YUKARI:でもね、歌いたいことや伝えたいことが出てきて、それを歌に乗せて歌うときに、曲に対する思いとかも凄くあるけど、でもライブじゃそうじゃないときもある。歌詞なんか気にしてないで歌ってるときもある。

答えが出ないことを受け入れて、前へ進んでいる

──それはそうだよね。ライブっていろんなことから解放されていくだろうし。

YUKARI:うん。でもだから歌詞に対して考えてるのはわたしだけだから、ライブでわたしが歌詞を気にしないで歌ってたら、誰も歌詞を表現してないっていう(笑)。(谷ぐちに)歌詞のことは考えてないでしょ?

谷ぐち:一任してるってこと? してるよ。

YUKARI:そうじゃなくて、演奏してるときに、この歌詞はこういう気持ちの歌だろうからこういう演奏しようとか、考えてないでしょ?

谷ぐち:ある程度は考えてるよ。

──おお。

谷ぐち:ざっくりテーマというか、こういうこと歌ってるのかとか。そうしないと演奏にも熱が入らないでしょ。

YUKARI:へー、そうなんだ。

谷ぐち:自分なりの解釈だから多少のズレはあるだろうけど、考えるよ、ある程度は。だから難しいのは「I don't TRUST」で。コレは俺のこと怒ってるなって歌詞だから(笑)。でもホント、どういうこと歌ってるのかメンバーも考えてると思うよ。わからない歌詞もあるけどね。

YUKARI:じゃ、歌詞の世界は共有してるんだ。

──素晴らしい!

YUKARI:なんか、メリハリなのかもね。ちゃんと聴かせたいとこ、遊んでもいいとこ。それがわかってきたってことかな。

──今作のサックスいいですよね。目立ってる。

谷ぐち:こまさん(こまどり)、いいですよね。こまさんが加入して今回が初めてのフルアルバムなんですよ。こまさん、アー写撮るときも前へ前へと出て。もう一歩下がってくれないかって言いました(笑)。

──やる気の表れですね(笑)。曲順もいいですよねー。「ラーメンライス」、「EDUCATON」、「INVITATION」と爆音できて、「I don't TRUST」がソリッドでゾクゾクする。そこから「R.I.P, friends」、「WORLD'S END」でグッと聴かせる。

谷ぐち:曲順は今まで自分が口を出すこと多かったんですけど、それじゃいつもと一緒になるなって、ドラムのもんでん君に任せるからって。曲順はもんでん君と仁一郎が。俺だったら絶対しない曲順になりましたね。

YUKARI:ちょっとメロディックな感じが続く流れは谷ぐちは絶対しないよね。

──そのメロディックな「WORLD'S END」を作ったのは?

YUKARI:元はわたしが作ったかな。どんどん変わりますけどね。

──「HATER」は?

YUKARI:元は仁一郎君だね。どんどん変わっていったけど。それぞれにパターンがあって、谷ぐちの場合はパンクっぽく歌ってくれとか具体的に言ってくるんだけど、仁一郎君はこういう空気感をとか、こういう感じのものにしてくれとか、全体のイメージを言ってくるんです。「HATER」の最初のとこはパーティー感があるようにって、仁一郎君が持ってきたイメージ。

谷ぐち:たぶんね、パクリの元があるんでしょう(笑)。彼はいろいろ聴いてるから。

YUKARI:「HATER」に関しては、たぶん仁一郎君にイメージがあって、それに沿って曲ができていった感じはした。

──「HATER」、音が面白いですよね。粗くて重い、そして痛快。ガレージっぽいかな。特にドラム。溜めてる感じ? 面白い。

谷ぐち:面白いですよね。ミックスは一任して。もう仕上がりはミックスの原浩一さんのお陰ですね。

──CDで聴いてほしいですね。

YUKARI:今回はジャケットもあるから絶対CDで聴いてほしい。

──YUKARIちゃんの存在感が際立っていつつ、バンドとしてのスケールも増した。バラエティあって楽しいんだけど、メッセージはシリアスだったりする。楽しさとシリアス、両A面なわけだけど、どう消化して曲にしていったのか…。漠然とした質問ですが…。

YUKARI:今作の中で特に「I don't TRUST」はかなりな出来事があって。消化するための手段が歌詞であったっていう感じだったんです。消化するための手段として、歌詞を使ったっていう。実際そう簡単に消化できるかって言ったら難しいところなんですが。

──ああ、なるほど。シリアスなことや怒り、そしてそんなものを吹き飛ばすような楽しさや自由さ。両方が今作にはあります。矛盾しないんですよね。最高。

YUKARI:答えが出ないことへの前向きな諦め…、いや、諦めではないな。答えが出ないことを受け入れて、前へ進んでいる感じ。

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