販売は未定…ミズノが越前和紙の「野球グラブ」製作 見た目は革製そっくり、キャッチボールできる?

ミズノが職人たちと協力して越前和紙で製作した野球グラブ=福井県越前市アイシンスポーツアリーナ

 スポーツ用品大手のミズノ(本社大阪市)が、福井県越前市の伝統工芸の越前和紙を使って野球グラブを製作した。産地の複数の工房が連携し、職人たちが力を結集。通常の革製グラブと同様のなめらかさと丈夫さを備えたグラブが完成し、越前和紙の新たな可能性を示した。

 同社が、環境に優しいグラブ開発の可能性を追求しようと、一つの素材として和紙に着目。2021年に大阪市で開かれた展示会に出展していた清水紙工(越前市新在家町)に協力を打診したのがきっかけで、他の工房も巻き込んだプロジェクトに発展した。

 グラブ本体の和紙を漉いたのは、滝製紙所(同市大滝町)の伝統工芸士の瀧英晃さん(44)。ちりが混じるなどで商品にならなかった和紙を原料に戻して再利用した。清水紙工の清水聡さん(35)がこんにゃくのりを塗り込んで強度アップと防水の効果を与え、受球面はしなやかさを出すための手もみ加工を施した。

 一部裏地に布を当てた以外は全て和紙でできており、パーツを結び付ける和紙ひもは山伝製紙(同市南小山町)、ミズノのマークは信洋舎製紙所(同市定友町)が製作。「産地の総力戦」(清水さん)によって約2年がかりで完成にこぎ着けた。

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 8月に越前市で開かれた千年未来工藝祭で展示されると、牛革のグラブにそっくりの見た目とはめ心地が来場者たちを驚かせた。越前和紙の柔らかさと強さが生かされており、今後の販売は未定だが、軽めのキャッチボールには十分使えるという。

 プロジェクトを担当したミズノのデザイナー丹穣路さん(27)は「職人さんたちが持つ技術の引き出しの多さが製作を可能にした。さまざまなリクエストに一つも断ることなく向き合ってもらえた。皆さんから前向きなチャレンジ精神を感じた」と産地をたたえる。

 10月に丹南地域で開かれるRENEWでも清水紙工が展示出品する。清水さんは「越前和紙の産地が残ってきたのは、伝統的な技術を守りながら新しいことにチャレンジしてきたから。今回の挑戦も次につなげたい」と話している。

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