記録的な不漁が続く「秋の味覚」 唯一の明るい材料とは

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 バケツを「馬穴」と表記するなど、当て字が得意だった明治の文豪・夏目漱石は『吾輩(わがはい)は猫である』の中で、サンマのことを「三馬」と書いた。<さんま、さんま、さんま苦いか塩つぱいか。>のフレーズで知られる詩人で作家の佐藤春夫の詩『秋刀魚(さんま)の歌』が発表される16年前のこと。当時はまだ「秋刀魚」の表記が広まっていなかったようだ。

 そのサンマの初競りが先日、札幌市の中央卸売市場であり、最高値は昨年の4倍の1キロ当たり23万円、1匹換算で2万8千円だったという。水産庁によると、今季のサンマの来遊量は過去最低の漁獲量だった昨年と同じく低水準の見込み。「秋の味覚」の先行きが心配だ。

 記録的な不漁が続くサンマの漁獲量は昨年まで4年連続して過去最低を更新。ピークだった1958年の約32分の1にまで減少した。温暖化に伴い日本近海の海水温が上昇し、冷たい水を好むサンマが沖合に移動したことと、中国や台湾の大型漁船による公海上での漁も影響しているとされる。

 唯一の明るい材料は、調整の結果、ロシアの主張する排他的経済水域(EEZ)内での漁が2年ぶりに実施できる見通しになったこと。これで漁獲量が少しでも増えるといいのだが。

 落語『目黒のさんま』では、サンマの塩焼きは江戸時代から「庶民の味」の象徴だった。それが殿様が食べるような高級品になっていけば、味とは別の苦みが増す。

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