「ラテン気質で、ときどき爆発する」イタリアンに、魚嫌いのイタリアン【WEC俺の相方“キャラ”紹介(4)フェラーリ編】

 9月8〜10日に迫ってきたWEC世界耐久選手権第6戦富士6時間レース。今年は多くのハイパーカー&LMDhマニュファクチャラーが日本初上陸ということで、このコーナーでは各メーカーを代表するドライバーたちに、自分のチームメイトを紹介してもらおう。最終回はフェラーリAFコルセ編をお届けする。

■“爆発”しても「落ち着けば大丈夫」

 まずは50号車フェラーリ499Pのミゲル・モリーナに、チームメイトに関する話を聞いてみた。

 モリーナはスペイン・カタルーニャ地方出身の34歳。カートからシングルシーターの道へ進み、フォーミュラ・ルノー2.0ユーロカップ、スペインF3選手権などを経て、フォーミュラ・ルノー3.5シリーズにまでステップアップ。2010年からキャリアを転向し、DTMにアウディ陣営から参戦を開始。2017年にフェラーリと契約し、LMGTEアマクラスのスピリット・オブ・レースからWECにデビューを果たすと、ル・マンではLMGTEプロクラスのラインアップに加わった。

 翌年からはLMGTEプロクラスでダビデ・リゴンとペアを組んで戦い、今年フェラーリ499Pのデビューに合わせてハイパーカーへとステップアップを果たした。

 まずはモリーナ自身の性格について、自己分析を聞く。

「僕自身は、すごくイージーなタイプだと思う。家ではいつも家族と過ごしていて、一緒に何かのスポーツをしたりしているし、基本的にノーマルな人間だと思うよ。特に僕をハッピーにするような大きなできごとはないし、ひとつひとつのことが僕を自分らしくしてくれる」

「僕はいつも変わらないんだ。同じ場所に住んで、すごくイージーなタイプ。趣味はサイクリング。トレーニングとしても、自転車にはよく乗っている。好きだからね。それにいろいろなタイプのスポーツが好きだ。テレビでさまざまな競技を見ているよ。それから、家族と美味しいものを食べに行くのも好きだね。スペイン料理やイタリア料理、地中海料理なんかが好きなんだ」

 そう落ち着いた口調で話してくれたモリーナ。ちなみに、フェラーリのオフィシャルYouTubeビデオでは、ハイパーカーに乗って「最初は首がヤバかった」という話を暴露していた。そのために、トレーニングの量を増やしたのだそうだ。

フェラーリAFコルセの50号車でWECに参戦しているニクラス・ニールセン、アントニオ・フォコ、ミゲル・モリーナ

 ではそんな彼に、まずはアントニオ・フォコを紹介してもらおう。

 フォコは、イタリア出身の27歳。4歳でカートデビューを飾ると、2013年にはフォーミュラ・ルノー2.0のアルプスシリーズで、4輪レースデビュー。同時に、フェラーリ・アカデミーのドライバーに選出される。2014年のF3を経て、2015年からはGP3に参戦して2シーズン戦う。さらに、2017年からはFIA F2にステップアップし、初年度はプレマで1勝、2年目はシャロウズで2勝を挙げた。しかし、2018/2019シーズンはフォーミュラEに戦いの場を移した。

 2019年からスポーツカーレースに転向、IMSAやGTワールドチャレンジ、インターコンチネンタルGTチャレンジなど、さまざまなカテゴリーにスポット参戦という形で出場してきた。WECには一昨年、GTE Amクラスのチェティラー・レーシングからデビュー。昨年はProクラスでモリーナと組み、今年からはハイパーカーにステップアップしてきた。

「アントニオは、すごくラテン気質で、ときどき爆発するタイプ。何かハプニングが起こると一気に爆発するけど、彼はとてもいい子だ。一旦落ち着けば大丈夫。ちゃんとそれを受け止めて、家に持ち帰っているから」

 なるほど、今年の第3戦スパでのピットアウト直後のコールドタイヤでのクラッシュが思い起こされる……。

 さて、モリーナのもうひとりのチームメイトは、ニクラス・ニールセンだ。こちらはデンマーク出身の26歳。フォコと同様、4歳からカートを始め、ヨーロッパのメジャーなタイトルを10も獲得しているという。2016年にはADACフォーミュラ4で4輪レース活動を開始するも、2シーズンでシングルシーターのキャリアを終えている。

 一方、F4を始めた頃には、スポーツカーやGTカーでのレースも開始。アウディ・スポーツTTカップやフェラーリ・チャレンジ、FIA GTネイションカップ、ELMSなどに参戦してきた。WECには、2019/2020シーズン、LMGTEアマクラスのAFコルセからデビュー。その年には、フランソワ・ペロード/エマニュエル・コラールとともに、また2年目はペロド/アレッシオ・ロベラとともにクラスチャンピオンに輝いている。この2年目のトリオは、昨年LMP2クラスにステップアップし、プロ/アマカップのタイトルもものにした。そして今年、ニールセンは、ハイパーカーのドライバーとなった。

 このニールセン、フォコとはまた別のタイプだとモリーナは言う。

「ニクラスは、年齢の割にはとてもシリアス。すごくきっちりしたタイプだと思う」

「だから、僕ら3人はとてもいいミックスだと思うんだよね。3人のうち誰か1人が何かを与えることで、それが他の2人の助けになって、頑張ることができるから。それがいいグループになるためには、一番重要なこと。だから、僕たちはグループとしてとても強いと思うよ」

「それに、楽しいエピソードはたくさんあるよ。僕らは一緒に過ごすことが多いし、いつも冗談を言い合っている。特に、ニクラスとアントニオは子どもの頃からライバルとしてカートをやってきているんだよね。それが今はチームメイトだ。彼らはいつもカート時代のことを言い合っていて、それは見ていて面白いね」

取材に応えてくれたミゲル・モリーナ

■レインタイヤを買えなかったから身についた“技”

 続いて今年のル・マン優勝トリオである51号車。こちらは、アレッサンドロ・ピエール・グイディに話を聞いた。

 ピエール・グイディはバリバリにイタリアンな39歳。両親が連れて行ったカートレースに魅せられ、3歳の時には自宅の庭でカートに乗り始める。2005年にはスペインとイタリアのGT選手権に出場、イタリア選手権のチャンピオンに。2007年にはFIA GTに参戦すると同時に、イタリアF3000にも参戦した。スポーツカーに転向した後、2014年には、デイトナ24時間レースのGTDクラスで優勝するなど活躍を見せた。同年、AFコルセからWEC最終戦にシリーズデビュー。この時はLMGTEアマクラスだった。

 2016年にはやはりAFコルセからLMGTEプロクラスでル・マン24時間に参戦している。2017年からはフェラーリと契約し、プロクラスでフル参戦を開始すると、その年早くもクラスチャンピオンに輝いた。そして、今年はハイパーカーにステップアップ。見事、ル・マン で総合優勝を飾った。

 テレビ中継で見るピエール・グイディは、いつも熱い感じだが、実際はどんな人なのか? まずは自分自身のことを語ってもらった。

「僕はホットじゃなくて、いつも冷静なドライバーだよ。もしかしたらホットに見えるかもしれないけど、正直なところ、冷静なんだ。まあ、イタリア人で、ラテンスタイルではあるけどね」

 そのラテンなところが、日本人から見るとホットに映るわけだ。ちなみに、モリーナ同様、フェラーリのオフィシャルYouTubeで暴露していたが、ピエール・グイディはイタリアで工学系の大学を卒業しているという。「あまりこのことは表で言いたくないんだ」と、YouTubeでは語っていたが……。

フェラーリAFコルセの51号車でWECに参戦、ル・マン24時間で総合優勝を飾ったアントニオ・ジョビナッツィ、ジェームス・カラド、アレッサンドロ・ピエール・グイディ

 そのピエール・グイディとLMGTEプロクラス時代からチームメイトとして組んできたのが、ジェームス・カラドである。

 カラドは、イギリス出身の34歳。幼少期からカートを始めるも資金はそれほど潤沢でなく、当時はホテルに宿泊する余裕も、レインタイヤを買う余裕もなかったという。雨が降ってもスリックで走っていたため、いまでも“レインダンサー”らしい。それでも、ICAジュニアのヨーロッパ選手権では、セバスチャン・ブエミやハイメ・アルグエルスアリなどを打倒したりもしている。

 2008年にはフォーミュラ・ルノーで4輪にステップアップ、以降2010年にはイギリスF3、2011年からはGP3にフル参戦。同年にはGP2にもスポットで出場し、2012年と2013年にはGP2にフル参戦した。GP2の2年目は、サハラ・フォース・インディアのテストドライバーも務めた。2014年からAFコルセのドライバーとなり、WECにフル参戦を開始。前述の通り、2017年にはクラスタイトルを獲得した。

フェラーリAFコルセの51号車フェラーリ499P

 また、もう1人のチームメイト、アントニオ・ジョビナッツィは、イタリア出身の29歳。チームの中では一番の若手だ。

 ジョビナッツィは6歳の時にカートを始め、数々のタイトルを獲得。2012年には、フォーミュラ・ピロタ・チャイナでシングルシーターデビューし、2013年には英国F3にステップアップ。同年、ヨーロピアン・チャンピオンシップにも参戦を開始。2015年まで、ヨーロピアン・チャンピオンシップにフル出場し、翌年はGP2シリーズにステップアップしてシリーズ2位。そのかたわら、スポット参戦ながらエクストリーム・スピード・モータースポーツからWECにデビュー。ELMSにもスポット参戦した。

 2017年にはザウバーからスポット参戦でF1デビュー。2019年から3年間は、アルファロメオ・レーシングのレギュラードライバーとしてフル参戦した。同時に、現在までスクーデリア・フェラーリのリザーブドライバーも務めている。2021/2022シーズンは、フォーミュラEにも参戦。そして、今年は2016年以来、7年ぶりとなるWECにハイパーカードライバーとしてフル参戦を開始した。

 前置きが長くなったが、ピエール・グイディから見たふたりは、どんな存在なのか。

「ジェームスとは長い間、一緒に組んでいるんだよね。ジョビは同じイタリア人で、すごく速いドライバーだ。彼とは今年初めて一緒にレースしている」

「僕ら3人はとても似ていると思う。だけど、レーシングドライバーはほとんどみんな似ているんじゃないかな。ただ、僕らはいつも冗談を言い合ったりしているし、とてもファニーだ。サーキットの外ではね。でも、いったんガレージの中に入ったら、レースに集中している」

「みんなが好きなのは、自転車に乗ることだね。僕自身、自転車が趣味で、情熱を傾けているよ。それから僕は、寿司を食べない。日本の人たちには申し訳ないけど、僕は魚が嫌いなんだよ。でも、チームメイトは寿司が好きだ。だから、僕はいくら魚が嫌いでも、彼らと一緒に寿司屋に行かなければならない時もあるんだ(苦笑)」

「また、僕とジョビはふたりともモナコに住んでいるから、一緒にサイクリングしている。レースウイークは自転車に乗る時間がないから、一緒に走ったりしているよ」

 英語がそこまで得意でないこともあってか、ピエール・グイディはあまり性格の部分について突っ込んだ紹介はしてくれなかったものの、F1でのキミ・ライコネンとのやり取りなどを見ているとジョビナッツィは“いじられキャラ”に見える。一方、カラドは結構真面目なタイプに見えるのだが、それは彼が母国の基金を始め、いろいろな人たちの助けを受けてステップアップしてきたからなのかもしれない。

取材に応えてくれたアレッサンドロ・ピエール・グイディ

© 株式会社三栄