映画『グランツーリスモ』は夢を叶える感動を味わえるレーシングムービー。ただしファンは“ご注意”を

 いよいよ9月15日(金)から、全国の映画館で公開がスタートする映画『グランツーリスモ』。ニール・ブロムカンプ監督が描く実際のストーリーを基にしたレーシングムービーだが、一般公開に先駆けて試写会にお邪魔する機会があったので、モータースポーツ専門サイト的レビューをお届けしよう。

 この映画『グランツーリスモ』は、モータースポーツファンならお馴染みの実話をベースにしたストーリーだ。2008年にスタートしたプレイステーション用レーシングシミュレーター『グランツーリスモ』のトップドライバーたちを、リアルなレースで戦うべく育てる、グランツーリスモと日産がタッグを組み進められた非常にユニークなプログラム『GTアカデミー』が映画の舞台となっている。

 すでに予告も公開されていることからご存知のとおり、主役として描かれるのは日本でも多くのレースで活躍したヤン・マーデンボローだ。ヤン役をアーチー・マデクウィが演じ、GTアカデミーを立ち上げた男ダニー・ムーア(実話でのダレン・コックスという位置づけだろう)をオーランド・ブルーム、GTアカデミーのチーフ・エンジニアであるジャック・ソルターをデヴィッド・ハーバーが演じるなど、実力派俳優がそろっている。ちなみに、モータースポーツファンならぜひご注目いただきたいのはヤンの母親役である元スパイス・ガールズのメンバー、ジェリ・ハリウェル・ホーナー。F1レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表の夫人だ。

 そんな名優ぞろいで作られた『グランツーリスモ』は、2時間強のストーリーのなかでヤンの挫折と栄光のストーリーが、モータースポーツという舞台、そしてバーチャルとリアルという狭間のなかでしっかりと描かれている。エンディングでは感動を味わうことができた。ストーリーは映画として良作だと感じた。

 その上で、オートスポーツwebをよくご覧いただいている熱心なモータースポーツファンの皆さんに、映画を観る上での良い点、注意点をお伝えしておきたい。まず良い点は、作中さまざまな車両が登場することだ。ブロムカンプ監督は、なんとR35 GT-Rを3台も所有するクルマ好きだそう。ランボルギーニやアウディ、BMW、LMP3車両など本物のレーシングカーが多数登場し、最新の映像技術で撮影されたレースシーンはブロムカンプ監督のこだわりが感じられる。GTアカデミーが舞台だが、登場するのが日産車ばかりではないのも良いところ。

 また収録も本物のサーキットが使用されており、モータースポーツファンならお馴染みのコースが多数登場する。実際に現地で収録が行われており、リアリティを盛り上げてくれる。もちろん、グランツーリスモ内のシーンも登場する。

 ただ一方で、注意点がある。筆者はグランツーリスモをプレイしたこともあるし、作中に登場する複数のコースも現地を訪れたことがある。またGTアカデミーの活動をリアルタイムで記事として取り扱い、ヤン本人とも話したことがある。

 もちろん本物のヤンは映像内には登場しない(ただし、劇中のレーシングカースタントはヤン自身が担当している)。その点は分かりきったことなので問題はなかったのだが、作中で描かれるレースシーンやディテールに多数「?」というシーンがあるのだ。「いったいこれはなんのレースだ?」、「この出来事はこの時じゃなかったはずだけど……」、「いやいやいや、そこはこうじゃないでしょ」という多数の“ツッコミどころ”が出てきてしまうのだ。これは劇中のグランツーリスモについてもしかり。ただ、これに気を取られてしまうと、せっかくのストーリーが楽しめなくなってしまう。

 というわけで、知識豊富なモータースポーツファンの皆さんは、まずは現実のヤンのストーリー、特にリアルのモータースポーツでのキャリア、シーンをまずはいったん忘れてもらってから鑑賞いただければ幸いだ。これはあくまで『Based on a True Story』。実話をもとにした映画作品で、エンターテインメントだ。

 例えて言うなら、2018年に公開された『ボヘミアン・ラプソディ』はフレディ・マーキュリーの人生を描いたものだが、これも史実に必ずしも正確ではない。それと同様にドキュメンタリーではない、映画作品としての『グランツーリスモ』をぜひ純粋に楽しんで欲しいところ。家族や友人などにモータースポーツに興味をもってもらうきっかけとしては最高の作品かもしれない。

映画『グランツーリスモ』のワンシーン
映画『グランツーリスモ』の予告イメージ

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