ドレイク&ザ・ウィークエンドのボーカルを模倣したAI生成曲が【グラミー賞】選考に提出される

今年初め、ドレイクとザ・ウィークエンドを模倣したAI(人工知能)生成トラック「Heart on My Sleeve」を、ゴーストライターと名乗る匿名アーティストが発表し賛否両論を巻き起こしたが、この楽曲が来年の【グラミー賞】選考に応募されたことを、この謎の人物の代理人が最近の米ニューヨーク・タイムズのインタビューで明かした。

<最優秀ラップ楽曲賞>と<最優秀楽曲賞>の選考に提出された「Heart on My Sleeve」は、レコードにAIテクノロジーが使用されているにもかかわらず受賞資格があるとレコーディング・アカデミーのハーヴェイ・メイソン・ジュニアCEOはニューヨーク・タイムズに語った。「クリエイティブな面に関しては、人間によって書かれたものであるため、完全に受賞資格がある」と彼は指摘している。

2023年4月、「Heart on My Sleeve」はSpotifyで600,000回以上、YouTubeで275,000回以上再生されたが、大きな反発を受けたことからSpotify、YouTube、Apple Music、TIDAL、Deezerがそれぞれのプラットフォームからこの楽曲を削除した。UMGは米ビルボードへの声明でこの楽曲とAIの使用を非難し、このようなバイラル投稿は“なぜアーティストに害を与えるような形でのサービスの使用を防ぐ基本的な法的・倫理的責任がプラットフォーム側にあるのかを示している”と述べた。

メイソンは同紙に対し、この楽曲が爆発的にヒットした後、ゴーストライターにSNSでDMを送り、AIの力をさらに理解するためにレコーディング・アカデミーとのバーチャル座談会を企画したと語った。ゴーストライターはディストーションをかけた声で会議に出席し、さらに正体を隠した。

メイソンは、「あのレコードを聴いてすぐに、アカデミーの立場からだけでなく、音楽界や業界の立場からも取り組まなければならないものになるとわかった。とても創造的で、とてもクールで、世の中とリンクしている最新のものとAIが関わっているところを見始めたら、すぐに“よし、これはどこへ行くんだ?これは創造性にどのような影響を与えるのだろう?収益化のためのビジネス的な意味は何か?”と考えさせられる」と話している。

レコーディング・アカデミーは今年初め、人工知能関連の“規約”を発表した。「【グラミー賞】の選考、ノミネート、受賞の対象となるのは、人間のクリエイターだけである。人間の作者を含まない作品は、どの部門においても受賞資格がない。アカデミーは独自の裁量により、そのような作品がその部門に関連する意義のある、ごくわずかな人的オーサーシップ(著作者であるという事実)以上のものを取り入れていないと判断した場合、特定の部門の作品を失格とすることができる」と規定している。“ごくわずかな”(de minimis)とは、重要性や意義を欠き、無視に値するほど軽微なものとアカデミーは定義している。

2023年9月5日にゴーストライターはトラヴィス・スコットと21サヴェージのようなボーカルをフィーチャーしたAI制作の新曲「Whiplash」を発表した。この曲は、両アーティストを模倣し、「Me and Writer raise a toast/ Trying to shadowban my boy but you can't kill a ghost(俺とライターは乾杯する/マイ・ボーイをシャドウバンしようとしたって幽霊(ゴースト)を殺すことはできない)」といった歌詞でゴーストライターを非難する人々をからかっている。

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