「お前なら絶対できる」 中学時代に不登校の青葉被告、フリースクールで慕った先生 青葉被告の半生ヒストリー【中学生前編】

事件前の青葉真司被告

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第3回公判が7日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。被告人質問が始まり、青葉被告が自らの中学校時代を語った。父親から虐待されていた経過や、不登校になって通ったフリースクールで、ある教員を慕ったエピソードを明かした。

 青葉被告は、弁護側からの質問に詰まることなく淡々と答えていった。

 青葉被告は中学時代、既に母親と離婚していた父と兄、妹と生活していた。父親は無職で生活保護を受給しており、経済的な事情から、引っ越しを2回経験した。4人1部屋で暮らしていたという。

 父からは虐待を受けていたという。

 中学1年時のエピソードとして、父親から「(習っていた柔道の大会で獲得した)準優勝の盾を燃やしてこい」と言われたり、「体育祭なんか行くんじゃねえ」と言われて欠席したりしたことを明かした。父親には「逆らえなかった」。

 それでも、父親の態度に耐えかねた青葉被告は、「中学2年のときにつかみかかり、警察を呼ばれた」。体が大きくなったこともあり、それ以降、虐待はやんだという。

 青葉被告は、中学時代の不登校の経験を打ち明けた。転校が契機だったという。「学校に行かなくなって、外出しなくなり、遊ばなくなった」。そして、15人くらいが在籍するフリースクールに週4、5回くらい通うようになった。フリースクールでは「変わった先生がいて、なついた記憶がある」と明かした。

 その先生は理科の担当だった。青葉被告は「疑問に対し全部答えてもらった。それで興味を持って行くようになった」と振り返った。「リーダーシップに関してわかりやすくまとめたプリントを配り、自己決断について教えてくれた」

 それまでの教諭とは「まるで違った」と青葉被告は強調した。この先生に、中学卒業後に定時制高校に行くことを報告すると、こんな言葉を掛けられたという。「お前なら絶対できる」「フリースクールにはもう戻ってくるな」

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 検察側は5日の冒頭陳述で、青葉被告が京アニへ恨みを募らせた背景には「自己愛的で他責的なパーソナリティー(性格)」があると主張した。これは生育歴に起因すると分析し、両親の離婚後、同居した父からの虐待や、生活困窮に伴う転居、不登校を経験する中で「独りよがりで疑り深い性格」になった、と指摘していた。

 起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。

 裁判の最大の争点は、青葉被告の刑事責任能力の有無と程度だ。

 検察側は、妄想に支配された末の犯行ではなく、「筋違いの恨みによる復讐」と主張。被告には事件当時、完全責任能力があったとしている。一方、弁護側は、被告にとって事件は「人生をもてあそんだ『闇の人物』への反撃だった」と説明。事件当時は心神喪失か心神耗弱の状態だったとして、無罪か刑の減軽を訴えている。

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