社説:日本版DBS 子ども守る制度設計を

 性犯罪から子どもを守る制度にできるのか。さらなる慎重な議論が欠かせない。

 子どもと接する職業に就く人に性犯罪歴がないことを確認する「日本版DBS」の創設に向け、こども家庭庁の有識者会議が報告書案を示した。

 対象事業者として、学校や保育所、認定こども園、児童養護施設などに確認を義務付けた。一方、学習塾や予備校、スイミングクラブ、放課後児童クラブ(学童保育)などは任意がふさわしいとした。

 性犯罪歴などの範囲は、不同意わいせつ罪など性犯罪の前科で、盗撮と痴漢行為の一部も含む。

 政府は報告書を基に、秋に見込まれる臨時国会に関連法案を提出したい考えだという。

 子どもを守る対策が重要なのは言うまでもない。ただ英国を参考に導入を目指す制度を巡っては、憲法が定める「職業選択の自由」や個人情報保護との兼ね合いなどの課題を伴う。

 人権に配慮しつつ、いかに実効性を確保するか。拙速を避け、丁寧な制度設計を進めるべきだ。

 子どもと接する仕事は多岐にわたり、線引きの難しさが指摘されていた。子育て支援団体などからは、性犯罪が相次いだ学習塾の義務付けを求める声もあったが、公的な監督の仕組みが整っていないとして見送りになった。

 代わりに提唱されたのが、国による「認定制」の創設である。事業者らがDBSを任意で利用し、従業員の性犯罪歴を確認する。政府は認定した事業者を公表する。

 保護者の信頼を得るため多くの事業者が認定制を利用すれば、実質的には義務化と同じになるともみられる。ただ、どこまで浸透するかは見通せない。

 犯罪歴については、不起訴となった場合を対象とするか賛否が割れ、報告書は「慎重である必要がある」とした。就業を制限する以上、根拠は厳格であるべきで、妥当な認識ではないか。

 さらに性犯罪歴という重大なプライバシーに関わるため、情報漏えいや乱用を防ぐ厳格な運用が不可欠となる。確認申請の仕組みには十分な検討が必要だ。

 加害者のうち実際に裁判で有罪判決を受け、前科となるのは一部に過ぎないとの指摘もある。そもそも再犯さえ防げば被害をなくせるということでもない。

 DBSだけではなく、あらゆる場面で子どもが安心して過ごせるよう、環境を整える総合的な対策が求められる。

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