社説:辺野古判決 「門前払い」で突き進むな

 政府は「門前払い」の判決を盾に沖縄を追い込み、先の見えない移設工事を強行すべきではない。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、県と国が争った訴訟で、移設に反対する県の上告を最高裁が棄却した。

 県の切実な訴えについて実質的な審理をせず、形式上の手続き論だけで国の主張を追認した形である。行政をチェックすべき司法の姿勢として、疑問を禁じ得ない。

 辺野古の埋め立て海域で見つかった軟弱地盤の改良工事は、知事の承認が必要だ。防衛省は2020年に申請したが、玉城デニー知事は認めなかった。

 理由は、県民の安全を守る自治体トップとして当然の懸念にほかならない。専門家が「マヨネーズ並み」と例える軟弱地盤は最深部で90メートルに及び、調査が十分でない。地盤改良には7万本以上の杭(くい)を打つ必要があるが、可能なのか。移設完了は当初より大幅に伸びて「30年代半ば」とするが、それにとどまるのか。滑走路の地盤沈下を想定するが、使用に耐えるのか。環境破壊が広がらないか。

 「完成の見通しが立たず、事実上、無意味な工事を継続することは許されない」とする玉城氏の訴えは、過去3度の知事選や4年前の県民投票で示され続けている「移設ノー」の民意に根ざす。

 市街地中心にある普天間飛行場を返還する日米合意から27年を費やし、大前提だった「一日も早い危険性の除去」は、もはや実現性が不透明になっていると言わざるを得ない。

 ここに至るまで安倍晋三―菅義偉両政権は「辺野古移設が唯一の解決策。粛々と進める」と繰り返し、冷淡な姿勢に終始した。岸田文雄首相は「沖縄の心に寄り添う」とは言うものの、県民に向き合う努力は見えない。

 玉城氏が工事を承認するのは政治生命を失うに等しい。政府が代執行で工事を再開する可能性も取りざたされる。だが、強行は沖縄との溝を一層深め、安全保障の土台を揺るがしかねない。

 南西諸島への自衛隊配備が強まる一方、在日米軍専用施設の7割が国土の1%に満たない県に集中するリスクも指摘される。沖縄の負担軽減の観点だけでなく、基地の分散を考える時ではないか。

 県民の思い、技術上の問題、安保環境の変化などを広い視野でとらえ、政府は辺野古移設への固執を見直し、沖縄や米軍との対話に踏む込むことを求めたい。

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