リスクをあおる市民の動画 戦端は既に開かれた?「第6の戦場」

山陰中央新報デジタル

 防衛省の取り組みの中に「認知領域を含む情報戦への対応」がある。同省のインターネットサイトに「近年、一部の国が、対象国内を混乱させることや、自国の評判を高め、対象国の評判を貶(おとし)めることを目的として、偽情報の拡散などの情報戦を実施していると指摘されている」とある。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出後、科学的見地に基づかない中国政府の報道発表と、リスクをあおる一般市民の動画が拡散されている。同国政府が連携を意図しているかは定かでないが、防衛省の指摘を地で行っているように思う。一定量を中国に依存する輸出への影響は避けられない。ただ、一部の〝口撃〟が日本国内や中国以外の国での販売不振につながる風評被害は防がねばならない。

 日本側が同じことをしては、国際社会の自国への信用を落とすことになる。政府もこのような手段は取らないと明言している。

 それならば陸、海、空、宇宙、サイバー空間に続く「第6の戦場」とも言われる脳内の認知戦をどうしのぐか。凡人には分かる術(すべ)がないが、戦端は既に開かれた。

 このような局面で、かの儒教の国から伝わる仁智(慈しみを持ち、深く賢いこと)を持ち出しても、詮無きことか。それでも、せめて国民からはうかがい知ることが難しい外交交渉の現場では、日本と中国がこんな争いをして何になるのか、と冷静な視点からの議論を期待してやまない。

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