「全部嫌になった」「底辺に対し面倒見が良いわけない」 中退から退職、そして転落へ 青葉被告の半生ヒストリー【社会人編】

事件前の青葉真司被告

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第3回公判が7日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。初の被告人質問があり、青葉被告が高校卒業後、学業に挫折して生活に困窮した末、20代後半で罪を犯す「転落」の時期について詳しく語った。

 検察側は5日の冒頭陳述で、青葉被告が京アニへ恨みを募らせた背景には、「自己愛的で他責的なパーソナリティー」があると主張した。これは生育歴に起因すると分析し、「人生どうでもいい」と投げやりになり、不満をため込んで攻撃的になりやすい性格があると指摘していた。一方、弁護側は、被告は事件当時、心神喪失状態だった主張している。

 この日は、弁護側の質問に対し、青葉被告が応答する形で、半生を明かしていった。

 皆勤で通った定時制高校を4年で卒業したという青葉被告。全国紙の新聞奨学生として、東京都内の販売店に住み込み、新聞配達をしながらコンピューター音楽を学べる専門学校に入学した。

 新聞販売店では、午前3時に起床して朝刊を配達した後、「すぐにご飯食べて、すぐ学校に」。夕方に帰宅し、夕刊の配達や集金を終えると午後9時ごろ。そんな毎日を青葉被告は振り返った。専門学校の学費は、新聞奨学金でまかなっていたという。

 青葉被告は、音楽の専門学校に入った目的を「ゲームの音楽を作る人になりたかった」と述べた。しかし、「学び方の順序が遅く、不満を持ちながら勉強していた。とにかく時間がなかった」。

 半年後、青葉被告は専門学校に退学届を出した。新聞配達も1年でやめ、さいたま市内の実家に戻った青葉被告は、コンビニで働くようになったという。

 最初のコンビニは「4カ月か、半年くらい」働き、埼玉県春日部市への引っ越しを理由に辞めた。次に同県岩槻市のコンビニへ移り、7年ほど勤務する。同県越谷市の別のコンビニの仕事も掛け持ちしたという。

 

 しかし、青葉被告は越谷市のコンビニを3年ほどで辞めた。「仕事をしない後輩を強めに注意したら、店長に告げ口され、辞めさせられた」と青葉被告は回想した。ただ、「真面目に後輩の面倒も見てたし、なんでその子がそんな行動をしたのかいまだに分からない」

 岩槻市のコンビニは、その後も2年ほど勤務し続けた。しかし、店長から余りにも多くの仕事を押しつけられたとして、退職した。27歳か28歳ごろのことだという。無職となった青葉被告は「単発で派遣の仕事をやっていたが、疲れ果て、何も行く気にならずにやめた」。

 春日部市役所に生活保護を申請しに行ったが、「断られて帰った」という。時の首相は「聖域なき構造改革」を掲げた小泉純一郎氏。青葉被告は「弱者が切り捨てられる時代背景だったと思います」と振り返った。しかし、弁護人から「青葉さんはそうだろうと思っているのでしょうが、実際に(市役所の)窓口で何と言われたか」と質問されると、「そのまま働いてくださいと言われた」と答えた。

 青葉被告が無職だった期間はおよそ半年という。貯金などで食いつないだが、電気やガス、水道を止められ、家賃も払えなくなった。洗濯は「公園の水を使ってガシガシ洗っていた」。食事を取れない期間が長く続いたという。

 そして、青葉被告は事件を起こした。2006年、アパートのベランダで住人女性の下着を盗み、部屋に入って女性の口をふさいだ疑いで逮捕された。青葉被告は7日の法廷で、「性欲に困っていた」と当時を振り返った。

 青葉被告によると、そのころが一番、幻覚がひどかったという。 「人に会いたくなくなり、体は重い。いきなり動悸がしたり、頭がぼんやりして1時間くらいぼーっとしたりするのが、かなりあった時期だった」とした。弁護人が、その延長線上に事件があったのかと問うと、「そうです」と答えた。

 この事件の裁判中は、母と妹の面会を全て断ったという。当時の心境を「とにかくもう全部嫌になった。全部やれることは手を打って、それで裏切られたりして、これ以上はできないと思った」と振り返った。

 同じ頃、母や兄から「精神科を受診したら」と勧められたが、中学2年の頃に幻覚のような症状があった際、兄に「根性で治せ」と言われた記憶を踏まえて、結局受診しなかったという。

 その後、派遣社員として、茨城県や栃木県で工場作業を転々とした。その当時の心境について、「底辺というかアルバイト、 派遣に対して、そんなに面倒見がいいわけないですよね」と語った。

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 裁判の最大の争点は、青葉被告の刑事責任能力の有無と程度となる。

 検察側は、妄想に支配された末の犯行ではなく、「筋違いの恨みによる復讐」と主張。被告には事件当時、完全責任能力があったとしている。一方、弁護側は、被告にとって事件は「人生をもてあそんだ『闇の人物』への反撃だった」と説明。事件当時は心神喪失か心神耗弱の状態だったとして、無罪か刑の減軽を訴えている。

 起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。

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