年上の女性とデート、学校は皆勤「いい時代だった」 青葉被告の半生ヒストリー【高校編】

事件前の青葉真司被告

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第3回公判が7日、京都地裁(増田啓祐裁判長)であった。被告人質問が始まり、青葉被告が埼玉県内の定時制高校に通っていた頃の思い出を語った。交友関係や仕事は充実していたことがうかがえ「色んなものに触れられた、いい時代だった」と述懐した。弁護側の質問に答えた。

 青葉被告は定時制高校での4年間、日中は仕事、夜間は学校で授業を受ける日々を送っていた。高校2年ぐらいの時に、職を失っていた父親の体調が良くなり、タクシー運転手として再び働き始めた、という。

 兄はファミリーレストランで働き、妹は温水プールでアルバイトをしていた。青葉被告を含め家族4人とも職に就き、生活保護を受ける必要はなくなったという。

 一家は広めのアパートに引っ越した。「結構その頃は豊かだったと思います」と青葉被告は振り返った。

 青葉被告は高校時代に「三つほど仕事をした」。最初は倉庫で「ジャンプとかマガジンとかの雑誌を10トン車に搬入する仕事」だったが、肉体的にきつく、学業との両立も難しいと考え、半年くらいで辞めたという。

 当時、対人トラブルがなかったかを弁護士から聞かれると「会話そのものがなかったのでトラブルになり得なかった」と返した。

 次の職場は埼玉県庁の文書課。通っていた高校から紹介され、2年生の頃から嘱託職員として働くようになったという。

 業務内容について弁護人から問われると、専門的な用語を使って説明した。

 「郵便物の各階への配送と、文書の県庁内外の出先機関への配送」と述べ、「要するに一つのバッグがあり、その中に例えばその課宛ての郵便や文書を詰め込んで置いてきて、その課からの出すものを持って帰ってくる」と細かい部分まで言及した。

 また「県庁内での文書量の調査を任せてもらえ、集計する紙を集めて統計としてまとめて、課長補佐に見てもらうということをさせてもらった」とも述べた。

 県税事務所や県立高校、福祉事務所など出先機関に行くこともあったという。

 弁護人から、県庁での仕事にやりがいを感じていたかを聞かれ、「いろんな人がいたというのでやりがいがあったのはあります」と答えた。「けっこう、真面目にやっておりました」と丁寧な受け答えをする一面も見せた。

 私生活では、女性とデートすることもあったという。「映画を見に行ったことがあります」と、年上の女性との関係を明かした。他にも「四つぐらい上」の女性とカラオケに行ったことがあったという。

 定時制高校の最終学年となる4年目には、県庁での仕事に加え、ガソリンスタンドのアルバイトも始めた。

 仕事は「ガソリンの補充と物を売る仕事」。給油に訪れた客に声掛けしてエンジンオイルの交換を勧めることもあり「エンジンオイルを売ってセールスを取ってきた時に、周りが『青葉が売ってきた』と喜んでました」と振り返った。

 青葉被告の記憶では、月収は県庁での仕事が10万円弱、ガソリンスタンドが7万円。家の方に「月3万円だけ入れて」と言われ、2年ぐらい入れていたという。

 学校生活については「皆勤」で、「真面目にやっていました」と語った。

 「高校は真面目なのは10人くらい。だから真面目だと先生を独り占めできるんですよ。家庭教師みたいに細かいところまで教えてくれるんですよ」

 友人もでき、ゲームや音楽の話で仲良くなったという。マドンナ、チャゲ&飛鳥、ミスターチルドレン、LUNA SEAといったアーティストの曲を聞いていたことを明かした。

 高校3年から、楽器の演奏に興味を持ち、ギターやシンセサイザー、ベースを買った。中型バイクの免許を取得し、働いた給料で400ccのバイクも購入したという。

 弁護人から「定時制の高校時代、振り返って充実した時代だったか」と聞かれると、青葉被告はこう答えた。

 「いろんなものに触れられるお金があった。いろんなものに触れられたいい時代だった」。その口ぶりは冗舌で、声に高揚感を漂わせた。

 ただ、家に帰るのは嫌だったという。「親父は酒癖が悪く、友達の家を泊まり歩いた方がいい」と語った。

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 検察側は5日の冒頭陳述で、青葉被告が京アニへ恨みを募らせた背景には「自己愛的で他責的なパーソナリティー(性格)」があると主張した。これは生育歴に起因すると分析し、高校時代の経験から「自分は努力して成功した、自分はやればできるとの考えを抱いた」と指摘していた。

 起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。

 裁判の最大の争点は、青葉被告の刑事責任能力の有無と程度だ。

 検察側は、妄想に支配された末の犯行ではなく、「筋違いの恨みによる復讐」と主張。被告には事件当時、完全責任能力があったとしている。一方、弁護側は、被告にとって事件は「人生をもてあそんだ『闇の人物』への反撃だった」と説明。事件当時は心神喪失か心神耗弱の状態だったとして、無罪か刑の減軽を訴えている。

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