町田の躍進で期待したいこと/六川亨の日本サッカー見聞録

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Jリーグも今シーズンは約2ヶ月を残すのみとなった。J1は神戸と横浜FMが激しいつばぜり合いをしているが、J2では昨シーズン15位の町田が2位の磐田に勝点9差で独走態勢に入りつつある。昨シーズンのオフには大型補強により多くの選手が入れ替わった。新監督に元青森山田高校の黒田剛氏を招聘し、さらにヘッドコーチには元鳥栖監督の金明輝氏をヘッドハンティングした。

選手が大幅に入れ替わったことと、指導体制が一新されたことで開幕前は先行きを不安視する声もあったが、手堅いサッカーで結果を出すことにより初のJ1昇格へまい進している。エリキとミッチェル・デュークというJでも実績のある選手に加え、シーズン中には東京ヴェルディから教え子のバスケス・バイロンを引き抜くなど戦力補強に余念がなかった。

さらに8月19日には得点ランク1位(当時)だったエリキが左膝前十字じん帯断裂など全治8ヶ月の重傷で離脱を余儀なくされた。

余談ではあるが、神戸の齋藤未月も全治1年の重傷を負った。確たるデータがあるわけではないが、今シーズンは大けがを負う選手が多いような印象がある。シーズン移行の監督会議では、「夏場のケガと冬場のケガでの特徴や違いはあるのか」といった質問が出たという。酷暑による疲労から注意力が散漫になったことが大けがにつながったのか。大けがにもかかわらず、主審は笛を吹かなかった原因はどこにあったのかなど、今後の検証に期待したい。

町田に話を戻すと、得点源の離脱はかなりの痛手だろう。ところが9月5日、武漢からアデミウソンを完全移籍で獲得した。移籍ウィンドウの閉まる3日前の早業だった。

飲酒運転で日本を離れなければならなかったが、シティ・グループのお眼鏡にかなって横浜FM入りしただけに、その実力は折り紙付き。2016年から20年まではG大阪に所属し、16年と19年にはチーム内最多得点者となっている。そんな実力者を2週間ほどで獲得した町田の資金力とフロントの決断の早さは、神戸や横浜FMと変わらないと言っていいだろう。

町田の残り9試合で厄介なのは5位の長崎と、10位ながらプレーオフ進出に手の届く甲府くらい。残りの7チームの多くは残留争いをしているだけに、油断さえしなければJ1昇格は1試合ごとに近づいてくるはずだ。

むしろ楽しみなのは昇格した際の補強と言える。J1でも当然のことながらリーグ優勝を目標にするだろう。その際にどのようなビッグネームを獲得するのか。そしてそれが、楽天やメルカリ、MIXI、DMM TVがスポンサードする神戸、鹿島、FC東京、福岡といったチームにどのような相乗効果をもたらすのか、こちらも興味深いところである。


【文・六川亨】

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