阪神「アレ」へ、天国のカーネルさんもそわそわ!? 38年前、道頓堀に沈んだ呪いは解けるか

幸福の象徴とされる「おかえり!カーネル」。現在は日本KFCホールディングス関西オフィスの入り口に飾られる=大阪市福島区福島7

 プロ野球セ・リーグで首位を快走する阪神タイガース。18年ぶりの「アレ(優勝)」に向け一丸となったナインを見守るのは、熱心な虎ファンだけではない。白髪に眼鏡、左手にステッキを持ち、純白スーツ姿でおなじみの「あの人」。存命ならば9日で133歳になる。「人をしあわせにすることに引退はない」-。そう説いた彼は、天国から「アレ」の瞬間を心待ちにしている。

 ケンタッキーフライドチキン(KFC)の創業者、カーネル・サンダース。1890年、米インディアナ州で貧しい農家の長男として生まれ、40歳で小さなカフェを開業。50歳でオリジナルチキンのレシピを考案した。1980年に90歳で亡くなったが、KFCを世界規模のファストフード店に育て上げた。

 〇道頓堀事件の「呪い」

 その5年後、阪神タイガースが初の日本一に。21年ぶりのリーグ優勝を決めた10月16日、KFC道頓堀店(大阪市)のカーネル像が「バース選手に似ている」との理由で熱狂的ファンに胴上げされた後、川に投げ込まれて行方不明に。その後、阪神は17年間で最下位10度と低迷し、カーネルの「呪い」「たたり」との声も相次いだ。

 商標法改正に伴い、特許庁がカーネル像など5件を立体商標第1号として登録を認めたのが98年。翌年にはKFC阪神甲子園店(西宮市)がオープンし、カーネル像の除幕式では「六甲おろし」をバックにくす玉が割られ、阪神の優勝を祈願した垂れ幕も登場した。

 ○長期低迷からは脱したが…

 距離が縮まり、「呪い」が解けたのか。2003年に18年ぶりのリーグ優勝を果たすと、05年にもリーグ制覇。いずれも日本一には届かなかったが、阪神は長期低迷を脱した。08年には甲子園球場内にKFCが初出店。阪神は首位を快走して7月には優勝マジックが点灯したが、最終盤に巨人に逆転を許し、歴史的V逸となった。

 そして09年、道頓堀川の水辺工事の作業中、ファンに投げ込まれたとみられるカーネル像の上半身と下半身、右手が川底から24年ぶりに見つかった。大阪市から日本KFC社に引き渡され、9月9日の誕生日には甲子園球場で補修された姿で一般公開された。

 呪縛から解き放たれたかのように、その後の阪神はAクラス争いの常連となったが、なかなか優勝には届かない。気が付けば05年を最後に17年間、リーグ制覇から遠ざかり、歓喜に包まれた日本一からは38年が経過しようとしている。

 ○18年ぶり「アレ」、さらにその先の歓喜へ

 24年間も川底に沈み、発見後も「アレ」とは無縁だった再生カーネル像。10~13年は阪神甲子園店に「幸福の象徴」として展示された。阪神の優勝を祈願するファンや、遠方から見に訪れる利用客もいたという。13年からは東京都渋谷区の本社に保管され、本社移転に伴って17年からは関西オフィス(大阪市)に展示されている。一般向けには非公開で、老朽化が進んで移動が難しいため、残念ながら現時点では社外で展示する予定はないという。

 38年前はリーグ制覇の夜に川へ投げ込まれたため、続く日本一の瞬間を見逃した。まずは今季、18年ぶりとなるリーグ優勝へ-。マジックナンバーを順調に減らし、歓喜へのカウントダウンが始まる中、日本KFCホールディングスの広報担当者は「似ているとされたランディ・バースさんが野球殿堂入りした記念すべき年で、カーネルも38年ぶりの日本一を期待しているはず。『カーネルの呪い』が都市伝説だったとチームに証明していただければ」としている。 (大原篤也、井川朋宏) 【カーネル・サンダース人形(カーネル像)】ケンタッキーフライドチキン創業者カーネル・サンダースの60代のころを忠実に再現したとされる。高さ約180センチ、重さ26キロ(実際の体重は90キロ)。握手をすると、「恋が実る」「願いがかなう」などといわれる。1998年に不二家の「ペコちゃん」「ポコちゃん」や「大隈重信像」などとともに立体商標の第1号として特許庁に認定された。白髪に眼鏡、左手にステッキを持ち、純白スーツ姿が通常だが、KFC甲子園球場店では阪神のユニホームや法被、帽子などを着用した。2009年には兵庫県警たつの署(たつの市)から「振り込め詐欺撲滅大使」に任命され、犯罪防止に協力するなど幅広く活躍している。

■ケンタッキーフライドチキン(KFC)

 創業者カーネル・サンダースと阪神を巡る歴史 1890年 9月9日、米インディアナ州の貧しい農家の長男としてカーネルが生まれる。本名はハーランド・サンダース 1930年 40歳でカフェを開業

 40年 オリジナルチキンのレシピを考案

 55年 ケンタッキーフライドチキンコーポレーションを設立。その後、店舗数は急拡大した

 70年 日本でのKFC第1号店が名古屋市に登場

 72年 初来日

 80年 90歳でカーネル死去

 85年 阪神タイガースが初の日本一。リーグ制覇時にKFC道頓堀店(大阪市)のカーネル像が「バース選手に似ている」との理由で熱狂的ファンに胴上げされた後、川に投げ込まれて行方不明に。その後、阪神は17年間で最下位10度と低迷し「のろい」「たたり」との声も相次いだ

 88年 朝日放送「探偵!ナイトスクープ」の第1回放送で道頓堀川に投げ込まれたカーネル像を捜索。聞き込みや魚群探知機の使用、潜水作業などを駆使したが、発見できず

 98年 商標法改正に伴い、特許庁がカーネル像など5件を立体商標第1号として登録を認める

 99年 KFC阪神甲子園店(西宮市)がオープン 2002年 サッカーのワールドカップ(W杯)日韓大会で日本代表が決勝トーナメント進出を決め、喜んだサポーターがKFC三宮阪急駅前店のカーネル像に暴行を加えた

 03年 阪神がシーズン序盤から好調をキープして18年ぶりにリーグ優勝。ユニホーム姿で快進撃を見守るKFC阪神甲子園店のカーネル像の手には、いつもファンが持たせるメガホンがあった。日本シリーズはダイエーに3勝4敗で日本一は逃す

 05年 阪神が2年ぶりにリーグ制覇。日本シリーズはロッテに4連敗を喫す

 08年 甲子園球場内にKFCが初出店。阪神は首位を快走して7月には優勝マジックが点灯したが、最終盤に巨人に逆転を許し、歴史的V逸となった

 09年 道頓堀川の水辺工事の作業中、ファンに投げ込まれたとみられるカーネル像の上半身と下半身、右手が川底から24年ぶりに見つかった。大阪市からKFC側に引き渡されたが、米大リーグ球団からも獲得の申し入れがあったという。補修作業はNPO法人文化財保存支援機構(東京)が担当。誕生日の9月9日に甲子園球場で一般公開された

 10年 修復されたカーネル像「おかえり!カーネル」がKFC阪神甲子園店内で展示されることに

 13年 KFC阪神甲子園店の改装に伴い、カーネル像は東京都渋谷区のKFC本社に移動

 17年 KFC本社移転に伴い、カーネル像は関西オフィス(大阪市)へ

 18年 ベンチに座るカーネル像が登場 (注)ケンタッキーフライドチキンのホームページなどによる

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