駅前がバスロータリーに、憩いの広場や噴水どうなる? 大学や病院進出の神戸・新長田、専門家らは反対

バスロータリー化が計画されている新長田駅前広場。夏場は水が噴き上がり、子どもたちが遊ぶ姿も見られる=神戸市長田区若松町4

 神戸市がJR・市営地下鉄の新長田駅前広場(同市長田区)をバスロータリーにする計画に、賛否の声が上がっている。新長田エリアは阪神・淡路大震災後のにぎわい回復が今なお課題で、バスロータリー化はかねて地元自治会などが要望。近く周辺に新たな教育施設や病院が建つ予定で、市はバスの利用増も見込み2024年度の着工、25年度末の完成を目指している。一方、同エリアの再開発を検証してきた専門家グループは「バス利用は飛躍的には増えない」とし、市民が憩う広場を残して活用するよう求める。(井川朋宏)

 同市は震災で壊滅的被害を受けた同駅南地区約20ヘクタールの再開発事業で、ビル44棟の建設を計画。最後のビルとなる「新長田キャンパスプラザ(仮称)」が来年6月に完成し、兵庫県立総合衛生学院や、県立大と兵庫教育大のサテライトキャンパスが入る予定だ。

 市営地下鉄新長田駅も24年のリニューアルを目指して現在、大規模改修を実施中。28年度には駅前の若松公園に、市立医療センター西市民病院を移転・新築する計画もある。

 こうした中で市は利便性向上を掲げ、駅前広場のバスロータリー化も計画。もともと地元の自治会や婦人会から要望があったといい、地元への説明、周知の方法を検討する。

 市は23年度予算にバスロータリー化の設計・調査費8100万円を計上。総事業費は未定だが、乗り場3カ所と降り場1カ所を設け、同駅前を発着する便の新設を検討しているという。これにより、鉄道の発着などに合わせた柔軟なダイヤ設定が可能になるとする。

     ◇

 「市民の憩いの場をつぶしてまで(バスロータリー化を)進めるのは時代感覚とずれている」。8月上旬、新長田駅南地区再開発の検証を進めてきた専門家グループ「市民検証研究会」が市役所で会見を開き、「計画を撤回してもらいたい」と市に求めた。

 さらにバスロータリーを整備しても「閑散とした乗り場になるのでは」と予測。新長田駅前のバス停は現在、東西計5カ所で8系統があるが、いずれも途中停車で、ラッシュ時も1時間に3~4本程度。「路線を拡充しても、乗降客は飛躍的には増えない」と指摘した。

 併せて、現在の広場について、噴水を含め憩いの場としての価値を強調し「(広場を)コンクリートの車道にし、寒々とした空間に変える必要はあるのか」と主張した。

 広場を活用したにぎわい創出も提言。全国各地で飲食中心の「屋台村」が広がっていることに触れ、駅前広場の噴水を囲むようにテントを張り、50店程度が集まる「国際バザール」にすることを提案した。

 これに対し、市交通政策課の担当者は「バスロータリーは必要なので計画を進める」と強調。「広場は狭くなるが、できるだけスペースは確保したい。そこで『国際バザール』のような形にする方法もある」としている。

     ◇

 8月のある平日の午前中。広々とした駅前広場では、ベンチでくつろぐ高齢者の姿が散見された。噴水の水に触れてはしゃぐ子どもたちの姿も。一方で、駅から出てくる会社員らは足早に広場を通り過ぎていく。広場前の片側2車線の道路にあるバス停に並ぶ乗客は、多くて10人前後だった。

 広場のバスロータリー化には、地元住民の反応もさまざまだ。毎朝、広場で休憩しているという男性(80)は「計画は知らなかった。便利でお気に入りの場所なので残してほしい」。

 子ども2人を育てるパートの女性(48)は「広場は変わっていい。夜に遊ぶ少年らがいて騒がしく、危ないので。ロータリーができればバスを利用するお年寄りにも好都合なのでは」と話す。

© 株式会社神戸新聞社