「リッチとは何か」 資生堂元社長の胸に響く答え

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 若手記者に「尾崎の歌詞より難しい文章表現はするな」と教えたことがある。だが、シンガー・ソングライター尾崎豊さんが26歳で他界したのは31年前。当時生まれてもいない記者への熱弁は響かなかった。

 名曲がそろう尾崎作品の中で『街角の風の中』という曲が最も好きだ。アルバムになく、シングルレコードのB面に収録され、有名ではない。でも、らしからぬ軽快さが魅力で、カリスマと呼ばれた人物の別の顔が見える。B面ならではの味わい。

 仕事人間を根が切られて養分を得られない切り花にたとえ、「仕事はA面、趣味はB面。B面も豊かにしていくべきだ」と言ったのが、国内化粧品トップ資生堂の社長、会長を歴任した福原義春さん。92歳での死去が先日報じられた。

 著名な文化人で、洋ラン栽培、銅版画収集、写真など趣味は多彩。企業メセナ協議会長をはじめ公職も多かった。A面とB面に区別や主従はなく、感性が相互に往来する感覚だったという。人間性の厚みや余裕を感じ、多くの著書を読んだ。

 資生堂が命題に掲げる「リッチとは何か」という問いに、福原さんは「本物のことだ」と答えた。必ずしも特別な話ではなく、家で良書を読む、美しい音楽を聴く、山でごつい岩肌を眺めるのも至福のリッチだと理解した。そうでなければ湧かないような流麗な文章に、遊びは大事と思った。やはりB面が好きだ。B面人生も好きだ。

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