敬意と感謝込め自筆感謝状100枚 栃木署の吉田署長 1枚40分、貴重な時間に

協力者に自筆の感謝状を手渡す吉田署長(右)

 特殊詐欺の未然防止や人命救助に協力した市民らに警察が贈る感謝状。栃木県警栃木署の吉田学(よしだまなぶ)署長(57)は書道3段の腕を生かし、その一枚一枚を自ら毛筆で書き続けている。民間の賞状書士の資格を所持しており、4年前から書き上げた感謝状は100枚を超えた。筆を握っている間は、協力者の勇気や機転に思いを巡らせつつ、自身も無心になれる大切な時間という。

 吉田署長は小学1年生の時、父親から「自分の名前は一生書くから」と勧められて書を習い始めた。6年間で3段まで上達した。

 県警で達筆を披露する機会は限られていたが、2019年に初の所属長となる交通機動隊長に昇進し、賞状を贈る立場となった。通常は外注による印字だが「自筆で書ければ格好いい」と挑戦を始めた。

 裏付けとなる資格を取ろうと、賞状や贈答品の表書きなどを筆文字で仕上げる賞状書士の通信教育を受講した。レイアウトの基本や文字の大きさの比率などをテキストで学んで添削を受け、1年近くかけて20年8月に3級を取得した。

 感謝状1枚を仕上げるのに要する時間は40分ほど。特殊詐欺被害が疑われる人への声かけ、路上での高齢者や傷病者の保護-。書き始める時は、その事案を思い浮かべる。

 「実際にその場面になるとできそうでできないこと」だからこそ、1文字ずつ敬意と感謝を込める。協力者の氏名を書く時は人柄を想像し、特に気持ちが入るという。普段は軽妙なトークが持ち味だが、筆を持つ間は「集中して無心となれる貴重な時間」でもある。

 今春に栃木署へ着任してから8月中旬までに25枚を書き、累計で100枚に達した。「作品として飾ってもらえるように、もっと技術を上げていきたい」。これからも自筆で思いを込めた感謝状で市民の協力に応えていくつもりだ。

感謝状を書く吉田署長

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