最後の一杯に長い列 ラーメン「変竹林」62年の歴史に幕 長崎・松浦市志佐町

ラーメンを前に笑顔を見せる(左から)松本寿代さん、真一郎さん、美喜子さん=松浦市、変竹林

 長崎県松浦市志佐町のラーメン店「変竹林(へんちくりん)」が7日、62年の歴史に幕を閉じた。創業時からメニューはあっさりした豚骨ラーメンとおにぎりだけ。優しい味わいと店主の松本真一郎さん(66)一家の人柄で、三世代の常連客も多い。住民からは突然の閉店を惜しむ声が相次いだ。
 店を開いたのは松本さんの父で佐賀県小城市出身の故太一郎さん。地元の同名店をのれん分けしてもらい妻の美喜子さん(85)の古里の松浦で1960年10月に開業。長男の松本さんと妻の寿代さん(61)も加わり、4人で切り盛りしてきた。
 ラーメンは中太のストレート麺でスープによくなじむ。2006年に太一郎さんが亡くなり跡を継いだ松本さんは「週に何度も食べたくなる味」を追求した結果、近年は女性の1人客も目立つようになっていたという。
 「閉店」の張り紙をしたのは今月5日。松本さんの体力的な不安に加え、麺の仕入れ先が営業をやめ、材料調達が難しくなった事が決め手になった。閉店の情報がまちに広まると、午前10時半の開店時から満席。麺が残り少なくなり、張り紙の「8日まで」を1日前倒しせざるを得なかった。
 最終日の7日、昼前には100人以上の長い列。午後1時前に売り切れた。午前6時半から待ち、一番乗りだった佐世保市重尾町の会社員、前田修一さん(54)は「小学生の頃から父に連れてきてもらった。涙でうるうるしながら食べたからか、いつもよりスープが濃く感じた」と感慨深そうに店を後にした。
 最後の一杯のために東京から帰ってきた人、記念に丼を持ち帰る人も。松浦市志佐町の会社員、原田哲也さん(35)は週に1度は通っていた。「昔は出前があり、家に持ってきてくれた。自分も含め弟子入りして継ぎたいという人はたくさんいる。閉店は本当に寂しい」とショックを隠さない。
 夕方以降も「今までありがとう」と感謝を伝えに来る人の流れが止まらなかった。松本さんは「昨晩は緊張していた分、一生懸命やりきれてほっとしている」、寿代さんは「ラーメン屋さんになるのが夢だった。元気な体で片付けまでしっかり終えられ、万歳したい」と晴れやかだった。
 ここ数年、おにぎり作りや裏方に回っていた母の美喜子さんも「こんなに愛される店になるとは思わなかった。よく頑張ってくれた」と2人をねぎらった。


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