【MLB】 混迷極めるナ・リーグのサイヤング賞争い “サイヤングポイント”からレースを占う

写真:9日のツインズ戦にも好投したメッツ・千賀滉大

シーズンも終わりが近づき、プレーオフ争いが佳境に入る中、個人タイトル争いも混迷を極めている。特に今年のナ・リーグのサイヤング賞争いは大本命が不在。シーズン残り3週間での候補者の投球によって、大きく結果が左右される余地を残している。

防御率と総合指標bWARトップのブレーク・スネル、最多勝のジャスティン・スティール、奪三振数・疑似防御率FIPと期待防御率xERAでトップのスペンサー・ストライダーら、どれを取っても頭一つ飛び抜けた候補というのはいない。

この混戦のサイヤング賞レースを占う上で注目したい指標が、“サイヤングポイント”という指標だ。

この“サイヤングポイント”はセイバーメトリクス界の大家として知られるトム・タンゴ氏が生み出したもの。計算式は「投球回÷2 – 自責点 + 奪三振÷10 + 勝利数」と至ってシンプルだが、勝利数・防御率・イニング数・奪三振数というオーソドックスな指標が重視されるサイヤング賞投票の特徴を的確に捉えている。

この“サイヤングポイント”は、2006年から2020年までの両リーグのサイヤング賞受賞者30人のうち、全員が1位か2位にランクインしていたという優れものだ。しかも、“サイヤングポイント”で2位にランクインした受賞者も、1位からは4ポイント差に過ぎず、その精度は特筆すべきものと言っていい。

この便利な指標を用いると、賞レースはスネルとスティールの両左腕のリードが大きいことがはっきりとしてくる。

データサイト『ファングラフス』を参照すると、現時点でのサイヤングポイント1位はスネルの66.6、2位はスティールの64.3と僅差ながら、3位のストライダーは53.0と大きく引き離されている。

1度目のサイヤング賞を獲得した2018年以来の最優秀防御率を目前とするスネルと、それを0.03ポイントで狙うスティールが大きく評価される一方で、その内容にはいささか疑問符も付きかねない。

スネルは四球率がキャリアワーストかつリーグワーストの5.17で、被打球の量・質から算出される期待防御率xERAは3.95とその乖離は大きい。対するスティールも三振数の平凡さがネックとなり、xERAは3.39。リーグ最多の12非自責点を許し、高評価の源となっている勝利数もリーグ2位の援護点平均6.39に助けられた結果だ。

対して、期待防御率xERAや四球・三振・本塁打から算出される疑似防御率FIPではトップ、内容の良さが光るストライダーは、防御率3.83と表面上の数字が奮わない。もし防御率3.83での受賞となれば、歴代最低の数値となり、ここからの大きな追い上げがなければ受賞は考えにくい状況にある。

混戦極まる中、好投続ける千賀滉大の名前も囁かれるようになってきている。『MLB.com』のデビッド・アドラー記者は「なぜ千賀がサイヤング賞の議論に加わるべきか」と題した記事を投稿し、リーグ3位の防御率3.07を記録している上、内容も上々の千賀を推している。イニング数の少なさがネックなものの、サイヤングポイントでも千賀は6位に付けており、ここからの追い上げ次第でファイナリスト入りもあり得るかもしれない。

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