社説:秋本議員の逮捕 再エネの利権化、解明急げ

 洋上風力発電事業を巡り業者から賄賂を受け取ったとして、受託収賄容疑で秋本真利衆院議員(自民党を離党)が東京地検特捜部に逮捕された。

 「政治とカネ」に絡み、またも現職国会議員に司直のメスが入る由々しき事態だ。

 事業参入を後押しする国会質問の見返りだったとされ、事実ならば、国会の威信をおとしめる恥ずべき行為と言わざるを得ない。

 秋本容疑者は2019年2月~22年2月ごろ、洋上風力発電を手がける日本風力開発(東京)の社長(当時)から国会質問などを依頼され、約6100万円の賄賂を受領した疑いがある。

 資金の提供は、社長らと共同で設立した競走馬の馬主組合への出資や、個人馬主に登録する際に一時的に借りた形だった。受け取った資金は競走馬の購入などに充てられたとされる。

 秋本容疑者は「私は潔白」と提供資金の賄賂性を否定しているが、社長は「質問の謝礼」と認めているようだ。国会質問は議員の職務権限の行使に当たり、立場を利用し私腹を肥やしていたのなら許されない。

 自民党内で「脱原発」を掲げた秋本容疑者は自らを「再生可能エネルギーの族議員」と称し、政府が推進する洋上風力発電の旗振り役として知られる。

 そもそも国会議員が政治的な信念から取り組む政治課題であれば、利害関係のある事業者と馬主組合を共同設立し、多額の資金をやりとりすること自体、あってはならないことだ。

 だが、実際に国会で関連する質問を繰り返し、事業者公募の際の評価基準の見直しなどを強く求めていた。

 その結果、公募開始後に評価基準が変わり、再公募されるという異例の経緯をたどった。公正な競争が阻害された疑いがあり、特捜部には徹底した疑惑解明を求めたい。

 政府は脱炭素社会の実現に向け、再エネ普及の「切り札」として、40年に原発45基分に相当する洋上風力の導入を目指している。だが、新たな利権の対象となっていたとすれば、看過できない。

 再エネ拡大の機運にも水を差す。政府は捜査とは別に改めて事業推進のルールの正当性、透明性を検証すべきだ。

 秋本容疑者は疑惑発覚直後に外務政務官を辞し、自民党を離党した。だが、公の場で何も語らないまま逮捕に至った。

 有権者から負託を受けた議員として説明責任の放棄は不誠実であり、職にとどまる資格はない。

 政務官に登用した岸田文雄首相をはじめ、政府・自民党の責任は重い。

 「大変遺憾だ。厳粛に受け止め、今後の捜査の推移を見守りたい」との党幹事長コメントを発表したが、離党などでお茶を濁す人ごとのような対応は無責任に過ぎる。政治不信をさらに増幅しかねない。

© 株式会社京都新聞社