社説:国際卓越大学 研究の裾野崩す危うい集中

 世界最高の研究水準を目指す大学を国が支援する「国際卓越研究大学」に、東北大が認定候補に選ばれた。文部科学省の有識者会議が審査した。

 国が認定すると、政府が拠出した10兆円の基金「大学ファンド」の運用益から、年数百億円が最長25年にわたり配分される。

 政府が日本の研究力低下の打開策と位置づけ、巨額の資金獲得を国公私立大に競わせた。有力視されていた東京大や京都大は落選した。

 来年度以降、認定校を段階的に数校まで増やす方針だが、恩恵を受けるごく一部の大学や研究者以外は切り捨てる「選択と集中」の制度ともいえる。

 政府の統制と目先の成果が優先される側面が大きく、本当に研究力の向上につながるのか。危うさが否めない。

 世界の中で、日本の大学の研究力が相対的に低下しているのは確かだろう。

 国際的に注目度の高い論文数の最新統計によると、日本はイランに抜かれ過去最低の13位に沈んだ。1位の中国や2位の米国には、桁違いに水をあけられている。

 2004年の国立大学法人化以降、大学に対する政府の運営交付金や助成金が削減されたのが最大の要因との見方は多い。特に地方の大学では外部資金の獲得に苦心し、人員削減が進んだ。残った研究者に負担が集中し、研究環境が悪化しているとの指摘もある。

 博士課程の進学者は減り続けており、多くの研究者が不安定な非正規雇用にとどまっている。すぐに成果が出にくい研究がしづらくなっている状況こそ、改善すべきではないか。

 卓越大の選定は、研究力の裾野の崩壊に歯止めをかけるどころか、より加速させる恐れがある。

 学外者を交えた意思決定機関の設置や、年3%の事業成長などの要件は、学問の自由を縛りかねない。大学の自治や闊達(かったつ)な議論こそ、研究発展の礎であることを忘れてはならない。

 懸念されるのが、大学ファンドの運用だ。国は年3千億円の運用益を見込むが、運用を担う科学技術振興機構(JST)が発表した22年度の実績は赤字で、年度末の運用資産額は元本の10兆円を割り込んでいる。

 運用益の範囲内で大学を支援するため、成果が出なければ継続は難しい。安定的な財源とはいえず、制度設計自体に無理があるのではないか。

 審査では、「改革」を進める学内体制や統治を重視したという。

 京都大は研究組織の見直しなど三つの「構造改革」を申請に盛り込んだものの、学内の意思統一ができていない点が疑問視された。求められたのは「実効的なガバナンス」である。

 教職員や学生の声にも耳を傾け、認定の利点と問題点を吟味してほしい。

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