<大学サッカー>富士大が東北勢初の総理大臣杯V!勝ち進む度に強くなった「進化するイレブン」が有終の美

富士大が頂点に輝いた!大学サッカーの全国大会・総理大臣杯決勝が10日に宮城県仙台市内(ユアテックスタジアム仙台)で行われ、富士大(東北第2代表)は優勝候補の関西学院大(関西第1代表)に2-1で勝利し、東北勢初の学生大会日本一を達成した。

この日晴天の中で行われた試合は対極的な内容となった。泥臭く守る堅守速攻の富士大と優れた技術でパスをつなげるパスサッカーの関西学院大が激しい攻防を見せた。

前半は富士大が鋭いカウンターで相手ゴールに強襲すれば、関西学院大はパスワークからの連係、サイドアタックなど多彩なオプションで攻め立てる。シュート本数は富士大が2本、関西学院大は3本と下馬評では大会屈指の完成度を誇る後者が優位と見られていたが、互角の展開を見せて前半をスコアレスで終えた。

均衡が破れたのは後半11分-。右コーナーキックから関西学院大GK成田三太郎(2年、藤枝東高出身)が弾いたクリアボールを富士大DF白和勇心(4年、向上高出身)が左足で合わせるとゴール左側へ入り、待望の先制点を奪取。

続けて後半27分にはGK折口輝樹(4年、セレッソ大阪U-18)のロングパントキックが関西学院大DFのクリアミスによりゴール前にボールがこぼれると、前線へ抜け出した富士大FW寺崎朋範(3年、佐賀東高)がループシュートで追加点を入れた。

2-0とリードを広げて初Vに王手をかけるも、追いつきたい関西学院大は猛攻を仕掛けるも、富士大イレブンが身体を張った守備でゴールを死守する。

後半46分には関西学院大MF佐藤陽太(4年、京都橘高)の弾丸ミドルをGK折口がスーパーセーブ。

J1名古屋グランパス内定の関西学院大FW倍井謙(4年、名古屋U-18)が試合終了間際の後半49分に右足で1点を返すも、全員守備で守り切った富士大が頂点に立った。

この日22歳の誕生日を迎えて最高のプレゼントを勝ち取ったDF藪中海皇総主将(4年、北海高出身)は「1年生のときから2位以下はすべて一緒だと言われてきました。優勝以外考えていなかったので、優勝したときはまずホッとしましたね」と安堵の表情。

表彰式が終わると藪中総主将は、優勝カップを力強く天に向けて掲げた。

ミラクルじゃない

決勝は反骨精神が結実した試合だった。富士大は今大会1回戦周南公立大(中国第2代表)に3-2の勝利を挙げるまで学生全国大会では未勝利だった。東北では仙台大の後塵を拝す形で長年No.2を強いられてきたため、富士大の総理大臣杯制覇を予想した人間は少なく、奇跡やミラクルと言われた。

だが、2得点目を決めた寺崎は浮かない表情を浮かべていた。

「準決勝に勝ってある記事を見たときに『ミラクル富士大』と書いてあったんですけど、そこは自分が納得がいかなくて。自分たちは戦術ミーティングをちゃんとやって、その中で相手の特徴、ウイークポイント、ストロングをどう抑えるか、そこをどう突くかというミーティングを行った結果、中京大さん、法政大さん、関西学院大さんに勝利しました」と語気が強い。

富士大イレブンは1回戦から堅守速攻のサッカーを貫き、格上と見られる強豪校との激闘を続けてきた。3回戦は豪雨の中、試合開始前に会場変更などのアクシデントも乗り越えてきた。それだけに、この優勝を奇跡やミラクルといった言葉では片づけられたくない。

「これはミラクルじゃなくて、自分たちがリカバリーやミーティングを行って、その中で自分たちがどうやろうと。監督たちのメッセージがチーム全体として分かったので、力になったと思います」と胸を張った。

これまで富士大は用意周到に準備をしてきた。天然芝のピッチで試合する際は天然芝の練習場で慣らし、人工芝での試合は人工芝ピッチで練習する。ピッチのサーフェスの適応まで気を配り、実戦に臨んだ。

それだけに戦った選手たちだけではなく、スタッフ、サポートメンバーの努力をミラクルと表現されたくない。彼らと真っ向勝負で戦った中京大、法政大、関西学院大の選手たちは富士大イレブンの勝負強さを認めていた。

試合を重ねて進化した富士大の形

なぜ彼らは強豪大を立て続けに打ち破れたのか―。その理由は迷いのなさにある。富士大の守備はシンプルであり、エース級の選手を徹底的にマークし、危ないエリアに侵入されれば前を向かさずクリアに徹する。

ハイボールはGK折口がキャッチングで処理し、ゴール前はしっかり中央を固めてブロックを形成する。

攻撃はロングボールからの攻め上がり、球際の攻防を制してのカウンターと字面だけ見れば何の変哲もない堅守速攻に見えるが、最大の強さは富士大イレブンの「迷いのなさ」だ。

メンバー全員がやるべき目的を理解しているため、攻守の切り替えの初動、次のプレーの移行などプレースピードが極めて早い。

GK折口は「やるべきことがはっきりしているからできること」と話すように、プレースピードが極めて早いサッカーが強豪大に通用した。

このサッカーが完成するまでに敗戦を繰り返しながらたどり着いた。この日先制弾を決めたDF白和は戦術の完成までの経緯を話す。

先制点を決めて歓喜する白和(中央)

「(大会前の事前)合宿をやる中で、関東や関西の相手ともやりましたけど、自分たちに足りない部分がはっきり見えました。まずは守備から見直そうということで、チーム戦術をもう1回全体で確認して、そこをチーム全員一人、一人がサボらないで徹底的にやったことで結果につながったと思います」と戦術を見返して課題を徹底的に洗いなおしたという。

そして高鷹雅也監督は大会を通じて戦術の完成度が高まった考察を明かす。

「相手の(強さが)少しずつ上にレベルが上がっていった。例えば法政さんもそうだし、きょうの関学さんも、(対戦相手が)最初から伝統校同士だったじゃないですか。そういったところで、僕らは(対戦相手のレベルが)一つ、一つ上がったところは幸いなのかな」

初戦は中国第2代表の周南公立大、2回戦は九州王者の日本経済大、3回戦は昨冬インカレ(全日本大学選手権)8強に入った東海覇者の中京大、準決勝は同大会5度の優勝を誇る関東の名門法政大、そして決勝は大会屈指のチーム完成度を見せた関西王者の関西学院大。

初戦から徐々に相手の実力は上がり、戦うごとに富士大は戦術の練度が高まっていく。この大会での勝利はサプライズではなく、強敵を倒しながら成長を遂げて栄冠に輝いた。

2030年の目標を達成

富士大サッカー部公式ウェブサイトにはビジョンという形で下記の目標が掲げられている。

全カテゴリー全国大会出場を目指し、

①2025年までに全国大会4強入り

②2030年までに全国大会優勝

③運営組織・実力ともに東北No1 の大学サッカー部になる

チームは2030年に設定していた目標を7年早く達成してしまった。

「2030年までに全国優勝。だけど『あと何年か、あと何年か』と思っていたんですよね。今回は最初から大会挑むにあたって全国優勝を目指そうなんて1つも言っていないんですよ」と高鷹監督は目を丸くしていた。

それでもスタッフ、選手が一丸となって完成させた「進化する堅守速攻」は、今大会で台風の目となった。一人、一人の努力が実を結んで関東、関西の名門校連破につながった。

次の目標を問うと、「何回も言ってる通り、続けて活動することだけですよ。続けて出られる保証もあるわけじゃないし、地域のリーグ戦は仙台大のほうがリードしているわけだから。そこはコンスタントに戦っていくことが一番いいのかなと思います」と日本一になっても慢心はない。

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勝利の要因は「最後まであきらめない」と指揮官はいう。ダークホースと見られていた東北第2代表は頂点にたどり着いた。総理大臣杯を制覇したことで冬のインカレ出場権を勝ち取った富士大は、次の大舞台に向かってさらなる進化を遂げる。

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