江戸期「ハンドル錐」 長崎市内で実物発見 学芸員が入手、復元 シーボルトの大工道具図に掲載

見つかった木製の古い錐(左)。上部のドアノブ状部品と、取り替え用の穂先(左下)は復元した部品。右は現代のハンドル錐=長崎市平野町、市歴史民俗資料館

 江戸時代後期から長崎で使われていた大工道具の一種で、現在の「ハンドル錐(きり)」に当たる木製の古い錐の実物が、長崎市内で見つかった。市歴史民俗資料館の永松実学芸員が昨年入手し、8月までに欠損部品を復元して以前の姿をよみがえらせた。江戸後期の出島オランダ商館医シーボルトらの依頼で日本の絵師が描いた当時の大工道具の絵に、同様の物が描かれており、製作された時期は分からないものの実物の確認は初めてという。 ハンドル錐は柄の部分がコの字型などに折れ曲がっていて、上部を手で押さえてコの字部分のハンドルを回し錐の穂先を回転させる仕組み。日本では明治以降に西洋から入ったとされるが、出島出入り絵師川原慶賀の工房が制作した絵などに描かれており、長崎では江戸後期に既に導入されていたとみられている。 見つかった錐は本体と穂先で長さ43センチ。カシ材とみられる柄は中ほどが湾曲し、手で握る部分は円筒形の部材が回転する仕組み。穂先は差し込み式で取り替えが可能。上部の先端に丸い穴が空いており、ドアノブ状の別の部品を差し込んで手で押さえ、ハンドルを回して使用する。
 永松さんは30年ほど前から慶賀の絵に描かれていたハンドル錐の実物を捜しており、同市香焼町で以前集められた古民具の中から昨年発見した。見つかった本体に、復元したドアノブ状の部品や穂先を取り付けたところ、実際に木材に穴を開けることができた。

シーボルト収集の大工道具図に描かれた江戸後期の「ハンドル錐」(国立歴史民俗博物館「オランダへわたった大工道具」より)

 古い大工道具に詳しい長崎総合科学大の山田由香里教授(建築史)は、見つかった錐について「いつ頃作られたかは不明だが、日本の木を使って手作りした物のようだ」と話す。永松さんは「形が(江戸後期の)絵にそっくり。よく残っていた。今後展示を検討したい」としている。

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