葛巻町葛巻の元保健婦柴田幸栄(ゆきえ)さん(79)は、1980年に「乳児死亡ゼロ」を達成した町の軌跡をたどった絵本「育て赤ちゃん」を自費制作した。貧困や過酷な労働環境でも前向きに生きた町民の歩みに焦点を当てた。奔走した自身の経験も描き「郷土史にほとんど出てこないが、町民に知ってほしい大事な歴史だ」と思いを強くする。
「60年前、岩手の山奥の村や町は『日本一』赤ちゃんが死んでいた」。絵本はこの一文で始まる。寒さで肺炎を患う乳児が多かったこと、母親の過重労働による栄養不足で乳児が育たない状況など、苦難が続いた状況をつづる。
盛岡市出身の柴田さんは67年に町の保健婦になり、30年余り働いた。歴史を振り返り「町内を含めて知っている人はあまりいない」と制作を決意。公民館事業の手作り絵本教室に参加し、記録が残る資料や記憶を基に柔らかいタッチの挿絵や文章で仕上げた。