2022年は苦戦したが……。サンマリノGPを席巻したマルティン、“予想外”の週末/第12戦サンマリノGP

 MotoGP第12戦サンマリノGPはドゥカティ勢が表彰台を独占したが、なかでも優勝したホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)の速さが際立った週末となった。

 サンマリノGPの決勝日、ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリは独特の雰囲気に包まれる。メディアセンターから見える、8コーナー、11コーナーあたりの丘は観客で埋められていて、決勝レースのスタートが近づくと赤い煙が上がり、それがコースを染めていた。ドゥカティの“赤”だった。以前からいくぶん減ったとはいえ、2021年に引退したバレンティーノ・ロッシのグッズを身に着けたファンのイエローが、丘のなかに見える。ミサノ・サーキットはドゥカティを、イタリア人ライダーたちを、熱心に応援する観衆であふれていた。

 果たして、サンマリノGPの表彰台はドゥカティライダーによって占められた。地元の英雄であるロッシが率いるVR46ファミリーのイタリア人ライダー、マルコ・ベゼッチ(ムーニーVR46レーシング・チーム)、そしてフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)を退けて頂点に立ったのは、ドゥカティのサテライトチームライダー、スペイン人のホルヘ・マルティン(プリーマ・プラマック・レーシング)だ。

 マルティンは木曜日の会見で、「昨シーズンはここでかなり苦戦したんだ。まあ……このサーキットではあまり期待していない。優勝争いができるとは思っていないけど、ベストを尽くすよ」と控えめに語っていたのである。

 ところが、レースウイークが始まって見れば、サンマリノGPはほとんどマルティンの独壇場だった。予選ではポールポジションを獲得。このときのタイムで、オールタイムラップ・レコードを更新している。そして土曜日のスプリントレースでは優勝。決勝レースではポール・トゥ・ウインを達成した。

 むらもあるが、すべてが噛み合ったときのマルティンの速さは抜群だ。サンマリノGPはバニャイアやベゼッチのフィジカル面が万全ではなかったとはいえ、マルティンが“はまった”レースウイークだった。

「なんて特別な週末だったんだろう!」と、完全なレースで今季2勝目を挙げたマルティンは、レース後の会見で言った。

「確かに木曜日には、『(ミサノは)僕にとってはいいサーキットじゃない』と言ったよ。でもフリープラクティス1で走り出してすぐに、すごく気持ちよく走れたんだ。フィーリングが素晴らしかった。バイクには特に触らず、細かいマップにフォーカスしたんだ。これがここでの成功のカギだったと思う。信じられない。素晴らしい気持ちだ」

 今大会、マルティンのライバルは、同じドゥカティライダーのバニャイアとベゼッチだった。フロントロウを分け合った3人は、土曜日のスプリントレースでもその顔ぶれのままトップ3に入っていた。そして決勝レースでもその展開は変わらなかった。なお、今季、ドゥカティライダーが表彰台を独占するのは、アルゼンチンGP、フランスGP、イタリアGP、ドイツGP、に次いで5度目である。

「昨日の時点ですでに、彼ら(バニャイアやベゼッチ)のペース的にはくるだろうなと思っていたよ。トップに立てたので悪いスタートではなかったけど、彼らのエンジン音が聞こえて、ピットボードやスクリーンを見たら、彼らがすごく近くにいたんだ。でも僕は、周回を重ねることに集中した」

「レース序盤のグリップがとても低かったからだ。Moto2のレース後だったからだと思う。そのあとプッシュしたけどそれは限界の走りで、すごくハードにブレーキングしていた。ギャップをキープするためにね。それからはもう少しリラックスしたんだけど、そうしたら彼らがまた追いついてきたので、また攻めたんだ。タフなレースだったけど、すごくうれしいよ」

 チャンピオンシップでランキング2番手につけるマルティンの目標は、あくまでもレースでの優勝だという。

「今はただこのときを楽しみたい。以前も言ったように、僕の目標は、レースに勝つことなんだ。僕はファクトリーライダーじゃない。チャンピオンシップで勝つことは僕が負うことじゃないし、そういう責任は感じていないんだ。もちろん今のようにチャンスがあれば、挑戦するよ。ただ、“その日”はファクトリーライダーになったときに来ると思う。今、僕はファクトリーライダーじゃないからね」

 とはいえ状況としては、サンマリノGPでのスプリントレース、決勝レースの優勝により、マルティンはトップのバニャイアとの差を36ポイントに縮めた。

ドゥカティライダーの3人。会見では和やかな雰囲気が流れるシーンもあった
サンマリノGP決勝レーススタート前、ドゥカティカラーの赤い煙が観客席から立ち上る

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