社説:G20サミット 対話と協調の場、立て直しを

 インドで開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、他国への「武力行使を控えなければならない」とし、「核兵器による威嚇や核兵器の使用は容認できない」とする首脳宣言を採択した。

 ウクライナ危機を巡り、日米欧と中ロがさまざまな場面で対立し、分断が深まる中、双方が参加する包括的なG20の枠組みで一致した宣言がまとめられるかどうかが焦点だった。

 グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の代表を自負する議長国インドは、ロシアを名指しせず、強く非難する表現を避けて合意にこぎつけた。2008年のG20サミット開始以来、初の宣言見送りという事態は回避し、モディ首相は体面を保った形だろう。

 ただ、「ほとんどのメンバーがウクライナでの戦争を強く非難」と明記した昨秋のインドネシアでの首脳宣言より後退した感は否めず、合意を優先したG20の限界も示した。

 ウクライナは「ロシアの侵略に関し、G20が誇れるものは何もない」と落胆を隠さない。

 各国は貴重な枠組みを生かし、世界の安定に向けた対話と協調を立て直さねばならない。

 ロシアのプーチン大統領は昨年に続き不参加で、中国の習近平国家主席も初めて欠席した。

 宣言では、ウクライナ危機や長引く物価高などに伴う世界経済の後退に触れ、「成長と安定に対する逆風は続いている」と指摘した。

 インフレ抑制を狙った欧米中央銀行の急速な利上げは、途上国からの資金流出や自国通貨安につながり、債務が一段と膨らむ要因となる。加えて中国は不動産市況が悪化し、経済の失速が鮮明だ。

 国際社会の危機感共有は欠かせない。だが、G20で有効な具体策の合意形成までは踏み込めず、成果は乏しいと言わざるを得ない。

 会議では、アフリカ大陸の約50カ国・地域でつくるアフリカ連合(AU)が、G20への正式加盟を認められた。

 これまで南アフリカしか参加していなかったが、モディ首相が加盟に向けて議論を主導した。食料危機や感染症問題にもあえぐ途上国側を取り込み、インドの国際的な存在感を高める狙いがうかがえる。

 バイデン米大統領は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する構えを示した。一方で習氏との個別会談を模索していたが、肩透かしに終わった。意思疎通の早期再開を目指し、米中双方の努力を求めたい。

 岸田文雄首相は、インドネシアの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に続き、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出について各国に理解を求めた。ただ、今年のG7議長国として存在感を十分に示せたとはいえない。

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