【秋も要注意】致死率30%「マダニ」の恐怖…“刺されたら”「絶対にやってはいけない」こと

マダニは思いのほか身近なところにいるという(ijimino / PIXTA)

マダニが媒介する感染症で、致死率30%とも言われる「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の感染地域が、西日本から東日本へ北上・拡大しつつある。今年6月下旬には、マダニが媒介するオズウイルス感染を経た世界初の死亡例が国内で発表されるなど、ダニにまつわるニュースを見聞きして不安に感じている人もいるかもしれない。

マダニは春から秋にかけて活発に活動するが、それらが媒介する感染症から身を守るためにはどうすればよいのだろうか。

吸血後、体がパンパンに…

一口に「ダニ」と言ってもさまざまな種類があり、家の中に生息しハウスダストアレルギーを起こす「ヒョウヒダニ(チリダニ)」や、いわゆるパンケーキ症候群の原因にもなる「コナダニ」などは違い、マダニは基本的に屋外に生息している。前者らが成虫でも1mmに満たないのに対し、マダニの成虫は3〜8mm(吸血後は20mmほどになることも…)と肉眼で確認できるほど大型だ。

日本で確認されているマダニの一種「タカサゴキララマダニ」の雌成虫。右は吸血後(提供:国立感染症研究所)

マダニは人や動物の血を吸って生きており、病原菌を媒介することがある。刺された場合に発症し得る感染症はさまざまだが、特に発生地域の拡大とともに継続して確認されているのが「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と「日本紅斑熱」。いずれも死亡する可能性もある感染症だ。

  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    潜伏期:6~14日
    臨床症状:主に発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)。ときに腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴う。致死率は10〜30%程度。
  • 日本紅斑熱
    潜伏期:2~8日
    臨床症状:頭痛、発熱、倦怠感を伴う。主要三徴候である発熱、発疹、刺し口は、ほとんどの症例に見られる。近年、国内で年間200件を超える発生報告があり、死亡者も報告されている。

西日本から東日本へ“北上”しているワケ

マダニは一般的に、草むらややぶなどに多く生息すると言われているため、「畑作業をするわけじゃないから大丈夫」「キャンプや登山のときだけ気を付ければいい」と考えている人もいるかもしれない。

しかし、法政大学でダニの研究をする島野智之教授は「多くの場合、マダニを媒介しているのは野生動物です。そのため、都市部や住宅街であっても、たとえばタヌキが出没するような場所であればマダニが人と接するポイントができてきます」と指摘する。

国立感染症研究所によれば、「日本紅斑熱」は1984年に徳島県で、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は2013年に山口県で国内初の症例が報告され、近年は徐々にその報告数の増加とともに、報告される地域が西日本から東日本へも広がりつつあるという。

“北上”の理由について、島野教授は「現状としては『よくわからない』というのが実際のところです」としつつ、「これまであまり調べられて来なかったこと、そして野生動物が近年顕著に増加していることは、影響しているのではないかと考えています」と分析している。

有効なワクチンはない

「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に有効な薬剤はなく、万が一感染した場合は対症療法を施すしかないという。また「日本紅斑熱」には有効な抗菌薬があるものの、刺された本人が病院にすぐに行かない、診断の遅れがあったなどの理由から、依然として死亡例が報告されている状況だ。

現状として、いずれの感染症にも有効なワクチンはないため、予防が非常に重要となってくる。島野教授は「長袖、長ズボンを着用する、ズボンの裾は靴下の中にインする、サンダルを避ける、首にタオルを巻くなど、肌の露出を極力減らすことが基本になります」と言う。

「衣類の上から市販の虫よけスプレーを吹きかけるのもおすすめです。虫よけスプレーは、マダニに対する忌避剤『ディート』『イカリジン』のいずれかが含まれているものを選んでください。ちなみにイカリジンのほうが、人間への害がより少ないと言われています。

また、最近は衣類そのものに虫よけ効果があるものも販売されているので、それらを活用するのもよいかと思います。また、活動の後にはお風呂で自分の体にダニが付いていないか、よく確認することも大切です」(島野教授)

国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より(https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/2287-ent/3964-madanitaisaku.html)

マダニに刺されたら「絶対にやってはいけないこと」

マダニは刺すと、数時間後に口器からセメント物質を分泌して動物の皮膚にしっかりと体を固定し、数日から10日間以上かけて吸血する。しかし、その唾液には麻酔のような物質が含まれているため、刺されていることに気づかない場合も多いという。

いざ自分の体にマダニがくっついているのを見つけた場合、とっさに引き抜いたりつぶしたりしてしまいそうだが、島野教授は「絶対にやってはいけない」と注意する。

「マダニの体はスポイトのようになっていると想像して下さい、ダニの体を強くつまんで引っ張ったりした場合、人や動物の体内に病原菌が逆流してしまいます。また、つぶしたときに手を介して病原菌が自分に感染することもあるので、絶対にやめてください」(島野教授)

ポイントは「硬い口器をつまんで抜く」ことだというが、ピンセットを使うにしても、マダニがセメント物質を出して非常に硬くくっつき、なかなか抜けないこともある。

そこで島野教授がおすすめするのが「ティックツイスター」というフランス生まれのダニ除去グッズ。Amazonなどで800〜900円ほどで購入可能だ。

「非常によくできていて、マダニの口のところを挟んでくるくる回すと、口器ごと簡単に除去することができます。人間が刺された場合も同様に使えますので、犬や猫を飼っていない方も常備しておくと安心かと思います。

ただし、もともとは獣医師が開発した道具ですので、自己責任での使用をお願いします。また、YouTubeなどで使用法を事前にチェックする事が大切です。

刺されたときに正しい使い方をしないと、口器が残ることがあります。この場合には皮膚科などで取り除いていただくとよいでしょう。

もしティックツイスターを持っていない場合は、30mlほどのワセリンでしっかりふさぐと、ダニが苦しくなって離れることもあります。たまに『マダニをタバコなどで焼いた』という人もいるようですが、こちらはまったく意味がありません」(島野教授)

また、皮膚から除去したマダニは捨てずに、小瓶に入れアルコール消毒液などに漬けて取っておくことも重要だという(セロハンテープなどにくっつけて取っておいた場合、テープからマダニの体が剥がれないので同定しづらくなる)。

「2週間ほど様子を見て万が一発熱したら、取っておいたマダニを持って最寄りの皮膚科や内科を受診してください。その症状がマダニ媒介感染症であるかの判断材料になります」(島野教授)

人が直接刺されるだけでなく、ペットがマダニを持ち込んでしまうケースもあるため、散歩後には丁寧なブラッシングでマダニがついていないかチェックすることも重要だろう。

© 弁護士JP株式会社