【連載コラム】第29回:新人王争いは開幕前の本命2人がリード 吉田と千賀に逆転のチャンスはあるか?

写真:新人王オッズでナ・リーグ2位に位置する千賀

MLBの2023年レギュラーシーズンは残り3週間を切り、最終盤の戦いを迎えています。プレーオフ争いやタイトル争いとともに注目されるのがアウォード争い。今回は両リーグの新人王争いについて見ていこうと思います。

シーズン開幕前の時点では、昨季途中にデビューして才能の片鱗を見せていたガナー・ヘンダーソン(オリオールズ)とコービン・キャロル(ダイヤモンドバックス)の2人が各リーグの本命に挙げられていました。

ヘンダーソンはア・リーグ最高勝率を誇るオリオールズのレギュラーとして133試合に出場し、打率.259、25本塁打、75打点、9盗塁、OPS.825を記録。25本塁打は新人トップで、守備や走塁でもしっかり貢献しているため、データサイト「ベースボール・リファレンス」が算出する総合指標WARは5を超えています。一方、キャロルは141試合に出場して打率.279、24本塁打、69打点、47盗塁、OPS.866の好成績を残し、ワイルドカード争いに加わっているダイヤモンドバックスの戦いを牽引。こちらもWARは5を超えており、新人の枠を越えて、スター選手と呼んで差し支えないくらいの素晴らしいパフォーマンスを見せています。

MLB公式サイトが現地時間9月11日の時点で掲載した新人王のオッズを見てみると、ア・リーグはヘンダーソン、ナ・リーグはキャロルがトップ。新人王争いは大方の予想通りの展開となっています。このままヘンダーソンとキャロルが受賞する可能性は高いのではないでしょうか。

オッズの2位以下を見てみると、ア・リーグは2位がトリストン・カサス(レッドソックス)、3位がジョシュ・ヤング(レンジャーズ)、4位がタナー・バイビー(ガーディアンズ)、そして5位が吉田正尚(レッドソックス)という顔ぶれ。一方のナ・リーグは2位に千賀滉大(メッツ)が入り、そこから大差をつけられて3位タイにはスペンサー・スティアー(レッズ)、ジェームス・アウトマン(ドジャース)、ノーラン・ジョーンズ(ロッキーズ)の3人が並んでいます。ア・リーグはまだ多くの選手に受賞の可能性が残されていますが、ナ・リーグは実質的にキャロルと千賀の二択と言っていいでしょう。

では、吉田と千賀が逆転するためには何が必要なのか。吉田は兎にも角にも打撃成績を向上させることです。ア・リーグ打率ランキング5位の吉田ですが、守備と走塁の貢献度が低いため、WARは2にすら届いていません。大差をつけられているWARの数値でヘンダーソンを上回るのは難しいため、残り17試合で打撃成績を打率.320、20本塁打、80打点、OPS.900のラインに可能な限り近づけ、成績の見た目のインパクトで勝負するしかありません。

一方の千賀はリーグ3位の防御率を2点台まで向上させれば、達成が濃厚な200奪三振と合わせて、投票者に大きなインパクトを与えられると思います。新人王は多くの試合に出場する野手が有利な傾向もありますが、防御率2点台&200奪三振ならキャロルの満票受賞を阻止できる可能性は十分にあります。

MLBで新人王を受賞した日本人選手は、1995年の野茂英雄、2000年の佐々木主浩、2001年のイチロー、2018年の大谷翔平の4人です。5人目の受賞者が誕生しなかったとしても、1年目から見事な活躍を見せている吉田と千賀が来年以降にMLBでプレーする日本人選手にポジティブな影響を与えたことは間違いありません。レギュラーシーズン最終盤、吉田と千賀のラストスパートに期待しましょう。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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