山城の虜 北近江小谷城番足軽・千の日記③

近江の歴史と山城に魅せられ、小谷城と上平寺城を守る足軽・千が、その魅力をざっくり紹介していく連載の3回目。今回もお手柔らかにお付き合いください。

夏の城巡りは過酷

まだまだ暑い日が続きますが、今年の夏も終わろうとしています。私は夏が大好きで、毎年、「夏は短い、私の夏はあと何回やってくるのだろう」と、少し焦りながら日々過ごしています。毎年のことです。それにしても今年の夏は暑かった。

さて、大好きな夏も、山城巡りにとってはあまり相応しくありません。

山城の醍醐味は、第一に城の見取り図である「縄張り図」を見ながら「曲輪」(用語については➁の投稿を参照ください)を歩くことにありますが、夏は、山々の木々や草、藪が生い茂り、正確にその地形や城跡の様子を読み取ることが難しくなります。

縄張り図は、例えばこんな感じ。縄張り図とは、「現状の遺構から曲輪や防御施設の配置を読みとり、城の構造をわかりやすく示した図面のこと。実際に城歩きをする際、縄張図を参照することで、遺構の位置や規模を確認することができます」(お城を知って、巡って、つながるサイト「城びと」より)。

上平寺城の縄張り図

縄張図を描く技術が発達したのは明治以降のことで、1970年代頃から作成が盛んになったものだそうです。

白地に「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」などと書かれている部分は曲輪を示しています。その周りを取り囲んでいるようなラインは土塁で、等高線に対して垂直に切れ込みが入っているようなラインは「堀切」などを表しています。石垣や石段のマークもあります。

美しく整備された山城(弥高百坊)

ここに段差があるはずだが草が生い茂っていて境目がよく分からないな、とか、眼下にもう一段曲輪があるはずだけど木でよく見えない、という事態が起こります。

草が生い茂る城址

夏場に、縄張り図を見ながら現地を歩いてみてください。

それらに加えて、虫が多い、蛇も出てくる、熊や猿の行動が活発、そして暑い。

山城シーズンはこれからです。

夏の暑さがひと段落し、しかも晴れの多い爽やかな季節。秋から、雪が降り始める11月中旬くらいまでがベストです。紅葉を楽しむこともでき、落葉することで山肌をじっくり観察することもできます。食欲の秋、山城を歩いた後の塩むすび、カップ麺なんかも最高です。

「山城ガイド養成講座」

観光シーズンには、山での遭難事故も残念ながら発生します。米原市の山城でも今年に入ってから滑落事故が起きました。登山道の整備をし、危険な場所への注意喚起をしている中でも防ぐことができませんでした。

山城は、当時の臨戦態勢においての「攻撃」「防御」を想定した軍事施設であることは間違いないわけです。つまり、簡単に人間が歩ける、突破できる、楽しめる山であるはずがない。今でこそ、私たちが気楽に入らせてもらえる山になっていますが、その名残はいたるところにあります。それが山城の魅力でもあるのですが、登城する際は、そのことを少しだけ頭に置いて、それなりの装備を携えて挑んでほしいと思います。

危険を回避するためにも、ガイドさんの同行を強くおすすめします。

米原市では、ボランタリーガイド協会でたくさんのガイドさんが活躍するのと同時に、今年度から、文化庁の補助を受けた事業「まいばら山城ガイド養成講座」を開講しました。

城郭研究の第一人者でもある中井均さん、城郭ライターの萩原さち子さんを講師に、山城の基礎知識を学び、知見を深め、ガイドのスキルを身につけ、より安全に米原の山城を楽しんでいただく旅をサポートするガイドさんを養成することが目的です。

今年度から3年計画という長丁場で、きっちり学んでいただく機会を提供していく予定ということです。受講生は30名集まりました。3年後には「認定試験」もあります。

米原市内には、多種多様な中世城館跡が121か所あると中井均さんはおっしゃっています。3年後には「山城の猛者」が爆誕し、山城を中心とした米原の観光振興に期待が高まります!

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