長崎・福田本町沖でサンゴの産卵撮影 海中自然観察家の中村さん 「桜が舞うような幻想的な光景」

ヒメエダミドリイシの産卵=8月18日、福田本町沖(中村さん提供)

 暗い紺色の海に舞う無数の桜色の粒。長崎市福田本町沖で8月18日夜、サンゴの産卵が確認された。水中ガイドや海の環境保全に取り組む海中自然観察家、中村拓朗さん(39)=長崎市=が撮影に成功した。「市民に身近な場所で産卵が見られることをぜひ知ってほしい」と力を込める。
 大村市出身の中村さんは、大学で海の生物を専門に学んだ。卒業後は長崎ペンギン水族館に勤務して独立。現在は環境保全やユーチューブ配信などの活動をしている。
 撮影に成功したのはサンゴの一種「ヒメエダミドリイシ」の産卵。福田沖の水深約8メートル地点だった。中村さんによると、ヒメエダミドリイシは九州から関東まで広く分布しており、海岸から10~50メートル、水深5~10メートル付近に生息している。市内では高島に分布していることが知られているが、京泊や外海近郊の海でも見ることができる。
 桜色の粒は、正式には卵と精子が入った「バンドル」と呼ばれるカプセル。波ではじけ受精卵になると海中を漂い、成長した頃に海底に下りて定着するという。
 中村さんは2年ほど前、知り合いの60代のダイバーから「40年前に福田でサンゴの産卵を見たことがある」と聞いた。福田で産卵を確認したダイバーや研究者などの記録はなく、撮影を決意。2021年夏に産卵を確認し、今年8月に再挑戦した。
 8月18日午後9時半ごろ、酸素ボンベを背負い待機。午後10時ごろ放出が始まった。バンドルが一斉に放たれ、水面に向かって上がっていき、10分ほどで海は元通りに静まり返った。中村さんは「桜が舞い上がるような幻想的な光景に感動した」と振り返る。
 放出は沿岸からでも確認できる。バンドルは波に漂うため、日中に海面が赤っぽい波のように見えるという。
 近年は海水温が上昇し魚の食害が増えて藻場は減少している。海藻に代わる海の生物の隠れ家の一つとして、サンゴの価値は高まっている。中村さんは「実際に産卵を撮影し、福田の海の自然を再確認できた。サンゴが増え、海の環境が豊かになればうれしい」と笑顔を浮かべた。

海中を撮影する中村さん(中村さん提供)

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