累計で約127兆円、年率3.97%の好成績。年金はどういう方法で運用されているの?

老後の生活費の基盤になる年金。その年金が、普段はどのように管理されているのか、ご存じですか? 時折、メディアが年金の運用で「〇〇円の利益(損失)」などと報じることがあるため、何らかの形で運用されていることは知っているという方も少なくないはず。では、具体的にどのように運用されているのでしょうか。今回は、「年金運用」を紹介します。


GPIFの運用手法

2023年8月4日、年金の運用について「4-6月期の運用収益は18兆9834億円」との発表がありました。発表元は「GPIF(Government Pension Investment Fund)」。日本語にすると、「年金積立金管理運用独立行政法人」です。このやたらと長い漢字だらけの組織は、今から遡ること約60年前の1961年に設立され、1986年から年金資金の運用を担当していました。2006年以降は現在の「GPIF」に名を変え、年金積立金の管理・運用を行っています。その額、実に約220兆円(2023年6月末現在)。公的な資産運用団体としては、世界最大の規模です。

といっても、GPIFがすべての年金を運用しているわけではありません。GPIF自体はごく一部の資金を運用しているに過ぎず、実際に運用を任されているのは、信託銀行や資産運用会社です。三井住友トラストやアセットマネジメントOne(旧みずほ信託)といった国内の会社だけでなく、ブラックロックのような外資の資産運用会社も委託され、運用を担当。委託された各社がそれぞれ自由に運用しているわけではなく、運用方針やベンチマーク(運用の指標となる株価指数)が定められています。年金の給付は、その年の年金保険料の収入と国庫(国の資金)から行われており、GPIFが運用するのは、給付後に残った余剰分の資金です。

さて、能書きはこのくらいにして、GPIFで実際にどのような運用が行われているのか紹介しましょう。その運用スタンスは、至ってシンプルです。運用資産を「国内株式」「国内債券」「外国株式」「外国債券」の4つに分け、それぞれ資産の約25%ずつ投じるというもの。仮に、4つの投資対象のうち、相場が上昇して25%を上回った時には、リバランス(再配分)を実施して、元の25%に近付くように調整します。

仮に、日本の株式相場が大きく上昇することで保有する株式の価格が上がり、資産全体に占める日本株の比率が30%を超えたとします。その場合、日本株を売り、その他の資産を買い増すことで、バランスを調整するわけです。こうして、長期かつ安定的な資産運用の基本中の基本と言われる「長期国際分散投資」を実現しているのです。

厚生労働大臣の名のもと、4年ごとに中期目標が策定されますが、いまのところ「資産の25%ずつ、前述の4つの対象に投資する」方針が変更される動きはありません。ただし、経済や社会情勢、運用環境などに合わせて年金給付の水準を決める「マクロ経済スライド」という方式を採用しているため、今後の動向次第では、運用スタイルが変更される可能性はあります。実際、過去には相場が不安定なため、積立金が大きく目減りするリスクを減らすため、「国内債券」の割合を60%以上まで高めた局面がありました。

累計で約127兆円のプラス!

国民の老後生活に向けた大事な年金の運用。本来は、「減らさないこと」を主目的に運用を行うべきでしょう。ただ、少子高齢化が加速するなか、安定的な投資対象である債券への運用比率を高め過ぎてしまうと、GPIFが定める運用目標を達成できません。現在、GPIFには「賃金上昇率+1.7%」の利回りを“最低限のリスク”で確保することが求められており、その目標を達成するために、前述の資産配分が決められているわけです。

これまで、世界の金融相場にショック安が訪れ、GPIFの運用損益が年間ベースでマイナスになったことはありました。その都度、「年金運用で何千億円の損失」などと報じられるため、印象に残っている方がいるかもしれません。もっとも、2001年度から2022年度の22年間、年間で収益がマイナスになったのは、ITバブル崩壊の余波が残る2001年と2002年度、リーマンショック前後の2007年度、2008年度、2010年度、中国発のショック安(チャイナショック)が起きた2015年度、コロナショックが相場を襲った2019年度の7年間のみ。運用を開始した2001年度以降の累積収益額は、127兆円3658億円に上り、年率3.97%のプラスと好成績を収めています。

とはいえ、これからも同じように好成績を収め続けることができるとは限りません。2022年度は、資産全体では1.5%のプラスを維持しましたが、投資対象ごとの数字を見ると、国内債券が1.74%のマイナス、外国債券が0.12%のマイナスと、2つの対象がマイナス運用になりました。これは、米国を中心とした政策金利の引き上げ(利上げ)によって、債券運用のベースになる長短の金利が上昇(債券自体の価格は下落)したため。今後も、リーマンショックのような金融ショックが到来すれば、年間の運用成績がマイナスに落ち込む年は出てくることが予想されます。

GPIFは100年先を見越した超長期の運用計画を立てているので、1、2年程度のマイナス運用で大騒ぎする必要はありません。今でこそ少なくなりましたが、以前は「年金が破綻して、自分たちが老後を迎える頃にはもらえなくなるのでは」との声がありました。毎年の年金給付における国庫負担の割合が2006年に3分の1から2分の1に引き上げられるなど、日本の財政における年金負担が重くなっているのは確かです。しかし、年金は制度設計上、「全くもらえなくなる」可能性は低いでしょう。

GPIFの運用手法は長期国際分散投資のお手本

ただし、給付の金額が減ったり、もらえる年齢が引き上げられたりする可能性はあるため、その減額分や、老後の“豊かな”生活を楽しむための資金を確保するには、やはり自ら投資をする必要があります。その「長期国際分散投資」のお手本となるのがGPIFの運用手法なのです。

かつて世界トップクラスの資産運用会社に勤め、実際に巨額の資産運用を行っていた資産運用のプロによると、「確かにGPIFの手法は長期国際分散投資の手本にはなるが、4つの投資対象に均等に25%ずつ投資する方法では、少し投資リスクが高くなりすぎる。長期で安定的な資産運用をするには、もう少し、株式の比率を抑えたほうがいい」とのこと。また、「収益を増やしたい場合、『株式相場がいい』と感じたら株式への投資比率を高めるなど、自分の相場観(相場動向に対する考え方)に基づいてリバランスをすべき」とも述べています。

そのためには、自分の相場観を養わなければなりません。まずは、GPIFの運用スタイルに倣ってみてはいかがでしょうか。

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