海洋研究開発機構、南鳥島沖水深 5,600m海域で自律型無人探査機(AUV)による資源探査に成功

概要

今回の調査では、SIP海洋で導入したAUVを初めて南鳥島周辺海域に投入し、AUVに搭載したマルチビーム音響測深機(MBES:Multi Beam Echo Sounder)による海底地形データ、サブボトムプロファイラー(SBP:Sub-Bottom Profiler)による海底下浅部地層構造データ、サイドスキャンソナー(SSS:Side-Scan Sonar)を使った海底面音響画像データを同時取得した。

日本の領海等概念図
日本周辺の海底資源の分布

AUVは、水深5,600mの海底面から20mの高度において安定した潜航調査を行い、各種の観測センサーで取得したデータを母船に持ち帰ってくることに成功した。こうして収集されたデータは、これまでの船上からの観測例と比べて数十倍の解像度を有しており、精細な地層構造や複雑な音響基盤地形および断層構造を把握することができた。

背景

船舶を用いた海底調査を補完する技術として、AUVを用いた高解像度の海底地形調査技術の開発が世界で行われている。海底資源の探査では、広大な海域で海底下の地質構造を調査し、賦存する資源量を正確に把握する必要があるため、ケーブルによって行動範囲が制約されてしまう深海曳航体やROVを用いるのではなく、自律して安定航行が可能なAUVによる海底観測が適するとされる。

しかし、日本のAUVは、例えばJAMSTECのAUV「うらしま」の最大潜航深度が3,500m、「じんべい」の最大潜航深度が3,000mで、レアアース泥が存在する南鳥島周辺海域の5,500m以深の水深には対応できていなかった。(※「うらしま」は8,000m級の大深度化に着手)。

一方で、海外メーカーのAUVはカタログ上では水深 6,000mまで潜航が可能としながらも、5,000m以深での運用例が少ないのが実状であり、今回の探査では、各種観測データの取得だけでなく運用ノウハウの蓄積も期待されていた。

成果

今回の海底広域研究船「かいめい」による調査は2023年7月25日から8月11日にかけて実施された。

台風7号の影響により調査計画の変更があったものの、深海曳航体やROVとは異なりケーブルによる行動制限を受けないAUVの強みを活かし、海面のうねりや風浪による影響をほとんど受けることなく、調査の主目的である水深5,600mの海底下の鮮明な構造データを得た。

下図は、船上とAUVとの海底下の地層探査データの比較を示す。水深5,600mの海底を洋上から探査する船舶の観測結果(図(a))と比べて、海底面から20mの一定高度で安定して潜航するAUVで得られた観測データ(図(b))は高い解像度を有していることがわかる。この水深の海域でこれほどまでに高解像度・高精度の海底下地質構造のデータが取得された例は過去にないという。

SBP観測結果の比較 (a)船舶で得たSBP観測の結果、(b)船舶と同じ測線をAUV(海底面からの高度20m)が航走して得たSBP観測の結果

このような連続した高解像度の地層構造は、レアアース泥を含む堆積層の空間分布を把握するために必要不可欠な情報だ。また、今回収集された幅100mオーダーの凹凸地形を示す複雑な音響基盤などのデータは、南鳥島周辺海域における深海底の構造発達史などの科学的な考察を行う上でも重要な情報を提供してくれる。

今後の展望

AUVを用いた高解像度音響探査は、広範囲の海域から大水深に存在する海底資源の有望域を特定するために欠かせない技術だ。

今回の6,000m級AUVによる調査を端緒とする深海鉱物資源探査手法の確立によって、精緻な地層構造データとコアサンプルの分析結果との比較・統合が可能となり、今後の南鳥島周辺海域におけるレアアース泥の分布・資源量の精査が飛躍的に加速されることが期待される。また、この調査技術はレアアース泥に限らず、ほかの深海資源探査等への応用可能性も高いと考えられる。

さらに、AUVの観測によってもたらされる微細地形や海底面の状況の正確な把握は、2025年から予定されているレアアース採鉱における安全性の向上や作業効率の高度化に役立つことが大いに期待されるという。

▶︎海洋研究開発機構

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