MAEZAWA RACING前澤友作総監督独占インタビュー「モータースポーツ業界を盛り上げたい」

 2023年のファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWSは、日本で4ラウンドが開催された『ジャパンカップ』の日程を終えた。今シーズンはアジアの強豪チーム、ヨーロッパのファクトリードライバーが多数参戦し大いに盛況となったが、レースで、そしてシリーズ全体を盛り上げたのが、あの前澤友作総監督率いるMAEZAWA RACINGだ。ジャパンカップ最終戦となった第5ラウンド岡山のレース2では待望の初優勝を飾ったが、初めて本格的にモータースポーツに携わったシーズン、そして今後の関わりについて、前澤氏にインタビューした。

■『こんなに楽しいんだ!』というくらい楽しかった

──今シーズン、MAEZAWA RACINGとしてGTワールドチャレンジ・アジアに参戦し、チームオーナー兼総監督としてチームを率いられました。まずそもそもお伺いしたいのは、前澤さんはクルマ好きとしても有名ですが、モータースポーツもお好きだったのでしょうか。前澤友作総監督(以下MZ):正直、F1以外のレースは観たことがなかったです。昨年、Yogibo Racingさんにクルマをお貸しした関係でGTワールドチャレンジ・アジアにお邪魔しましたけれど、あれはレースを観に行ったというより、応援しに行った感覚ですね。自分でスタンドから観たのはF1だけです。F1はモナコでも観ましたし、日本でもシンガポールでも観戦しました。

──ちなみに、F1ではお気に入りのドライバーなどはいらっしゃいますか?MZ:今の時代で言えばルイス・ハミルトン。昔で言えば、もちろんアイルトン・セナやミハエル・シューマッハーは注目して観ていましたけど、それはテレビ越しですね。

──今季、実際にモータースポーツの世界に携わってみた感想を教えていただけますでしょうか。MZ:楽しかったです。『こんなに楽しいんだ!』というくらい楽しかったですね。最初は半信半疑で参加しましたけど(笑)。

──このGTワールドチャレンジ・アジアというシリーズにはどんな印象がありましたか?MZ:なんというか、昨年応援しに行ったときは、『こんなにお客さんが少ないんだ』とは思いました。F1しか行ったことがなかったので、F1の盛り上がりからしたら『人が少ないな』というのが率直なところです。このシリーズはジェントルマンドライバーが参戦するレースだと思いますが、『お金持ちアマチュアの自己満足のレースなのかな?』くらいの印象で、少し引いて観ていましたね(笑)。

──そんなシリーズに、実際にチームオーナー兼総監督として携わりました。印象は少し変わりましたでしょうか。MZ:相変わらずお客さんが少ないのは課題だと思いましたし、(主催者の)SROモータースポーツ・グループさんも集客に力を入れた方が良いのではないかな、と感じました。今回は僕も当事者でしたが、僕ができる範囲で別のイベントを会場内で開催して、なるべく盛り上がるような努力をしていきましたが、それでも数万席あるスタンドはガラガラでしたからね。来年以降それがどうなるのか、期待したいところでもありますし、課題でもあると思いました。

──そのイベント『MZDAO CAMP』を2023年の日本での4戦で開催されてきましたが、一度私も現地で拝見したところ、大きな盛り上がりを感じました。MZ:イベントに来られたほとんどの方がモータースポーツ初観戦だったと思うので、いろいろな刺激を受けられたと思いますし、僕としてもリアルで皆さんとお会いするのは初めてだったので、イベントを通じて皆さんにお会いし、かつ皆さんにとっても初めてのレース観戦を体験いただけて、ご満足いただけたのではないでしょうか。

──今季は前澤さんの愛車たちをサーキットでデモランさせたりしていましたが、SROモータースポーツ・グループとの関係はいいかがでしょうか。MZ:いろいろと、気軽にご提案いただいたり、相談させていただく関係性にはなっていると思いますね。ベンジャミン(フラナソビッキ)さんとやり取りさせていただきますが、彼も柔軟にいろいろなことを受け容れてくれています。引き続き協力していきたいと思いますね。

GTワールドチャレンジ・アジア第5ラウンド岡山 ピットで戦況を見守る前澤友作総監督
GTワールドチャレンジ・アジア第5ラウンド岡山 MAEZAWA RACINGのメンバー

■自ら買って出た盛り上げ役

──8月20日に岡山国際サーキットで行われた第5ラウンドのレース2では、待望の初優勝を飾ることができました。ズバリ、勝因をうかがえますでしょうか。MZ:『仕込みなんじゃないか?』というくらいのストーリーがあの週末はありました(笑)。あの優勝したレースのみをご覧になった方はご存じないかもしれませんが、前日のレース1はリタイアでしたし、これまで予選でも決勝でもなかなか結果が出せず苦しい戦いが続いていました。そんななかで、あんなドラマのような優勝をすることができて本当に嬉しく思っています。勝因が何かと言えば、チームのみんなが頑張ってくれたからということに尽きるのですが、僕が頑張ったところで言えば、チームビルディングという意味で盛り上げ役を自分から買って出て、みんなが楽しくできるような工夫はしました。

──盛り上げ役ということですが、具体的にはどういったことをされたのですか?MZ:チームは10〜20名の方が関わっていますけど、名前すら分からない、どんな人柄かも分からないところから始まりましたので、何度か食事会を開かせていただいて、皆さんの話を聞きました。基本的にみんなクルマ好きなので、クルマの話をするとすぐに意気投合できます。食事会はとても盛り上がりましたし、そうこうするうちにあだ名で呼び合うようにもなれました。

──今シーズンドライブし、プロジェクトを牽引する立場でもある横溝直輝選手という存在は前澤さんにとってはどのような存在でしょうか。MZ:やるときはやるんですが、ダメな時はダメ(笑)。とはいえやるときはやるので、そこの絶大な信頼感はありますね。面白い人材です。今季は僕が総監督という立場でしたが、事実上の監督は彼みたいなものでしたし、彼が積極的にメカニックやエンジニアの皆さんに声をかけてチームを引っ張っている姿を観てきました。だから今回の優勝は、彼の優勝と言ってもいいのではないでしょうか。これまで彼には色々なプロジェクトで損もさせられているので(笑)、この優勝で元は取ったというか、相殺できたのではないでしょうか。

──横溝選手のチームメイトであるピッティ・ブロムバクティ選手については。MZ:いいヤツですね。コミュニケーションが英語だったので、深いところまで話す時間もなかったのですが、タイに行って一緒に過ごしたいですね。ジェントルマンドライバーという名にふさわしい、ジェントルマンだと思います。

──今シーズン、チームオーナー兼総監督として4ラウンドを戦ってこられましたが、モータースポーツに対する接し方は変わりましたか?MZ:そうですね。面白いなと思ったので、今年の鈴鹿のF1は観に行きたいと思っていますし、スーパーGTがすごくお客さんが入っていると聞いているので、その現場にもちょっと行ってみたいです。僕はまだ、それぞれのチームがどういう経緯で発足し、どういう人が関わり、何にモチベーションを感じながら戦っているのかの全体感が読めていないんです。F1なのかスーパーGTなのか、GTワールドチャレンジ・アジアなのか、それぞれにいろいろなモチベーションはあると思いますが、そういった全体像を一度把握したいな、と思っています。

GTワールドチャレンジ・アジア第5ラウンド岡山 表彰台で優勝を喜ぶ横溝、前澤総監督、ブロムバクティ
GTワールドチャレンジ・アジア第4ラウンドもてぎ MAEZAWA RACINGのフェラーリ488 GT3 EVO

■来季以降は長期ゴールを定めて判断を

──今シーズンから本格的にサーキットに来られるようになりましたが、サーキットという場所について何か可能性は感じられましたでしょうか。例えばヨーロッパでのパドックは社交場としての意味合いもありますし、イベント会場としての可能性もあります。MZ:なんというか、レースが好きな人は楽しめると思うんですが、まずはルールも分からないですし、下手するとどのクルマがなんなのかも分からないですよね。初心者をもう少し受け容れる体制を作るべきではないかと思います。淡々と進み、淡々と“あちら側”の人たちだけでレースが繰り広げられ、勝敗が決められて、『なんだかすごかったね』で終わっていく。他のスポーツと比べると“自分ごと”にならない感覚がありました。

──サーキットの施設面ではいかがでしょうか。MZ:真夏にシリーズをやっていたので、スタンドのファンの皆さんがかわいそうでしたね。陽が強すぎて、皆さん日陰になっているいちばんうしろで観戦されていました。本来であれば前の方に来ていただいて応援されたら良いな……と思いました。

──今季はMAEZAWA RACINGとしてGTワールドチャレンジ・アジアに出場しましたが、2024年以降どういったところを目指しますか?MZ:来年やるかどうかも分かりませんが、お話はさっそくいただいています。ただ僕は先ほどもお伝えしたとおり、レース業界全体を把握できていません。どうせやるならば、やはり“どういうところを目指すのか”という中長期的な計画を立ててやるべきだと思っています。今年は突発的に誘いを受けて出ましたが、来季以降は長期ゴールを定めて、どういったシリーズにどういうかたちで出るのかを改めて考えた上で判断したいと思っています。

──ちなみに、前澤さん自身がドライバーとして何かに出場することはあるのでしょうか?MZ:よく言われるんですけどね(笑)。まずはレーシングカートからやってみようかな、と思っていますが、どのくらい現実的か理解して、厳しさも理解して、その上で余力があれば……ですね。とにかくいろいろなことをやっていますから。ただ、やると全部突き詰めてやるタイプなので、クルマに乗る……となると突き詰めてやってしまいそうで怖いですね(笑)。

──最後に、ぜひモータースポーツファンの皆さんにメッセージをお願い致します。MZ:まず、MAEZAWA RACINGは新参者でしたが、応援してくださった方々にはこの場を借りてお礼したいです。ともに優勝を喜んでくれて、Youtube等にもコメントを寄せてくれた方もたくさんいらっしゃったので、嬉しく思っています。ありがとうございます。来季以降についてもぜんぜんネガティブではなく、前向きに検討したいと思っています。『MAEZAWA RACING』という名前でやるかどうかも分かりませんし、どういう座組でどんなシリーズに出られるかも分かりませんが、モータースポーツ業界を盛り上げたいという気持ちは変わらず持っていますので、皆さんと楽しい、未来ある業界を作っていければと思っています。

* * * * *

 モータースポーツ媒体からの取材ということで、慣れないインタビューながら非常にジェントルに、かつ真摯に回答する姿が印象的だった前澤氏。なお、今季のGTワールドチャレンジ・アジアでは、日本チームの総合優勝はBINGO RacingとこのMAEZAWA RACINGしか飾れていない。それだけに今季、大いに存在感を残すことになった。

 2024年、前澤氏とMAEZAWA RACINGがチームが何に挑戦していくのか、そしてモータースポーツ界にどんな風を吹かせてくれるのか、期待したい。

GTワールドチャレンジ・アジア第3ラウンド鈴鹿 SRO代表のステファン・ラテルと前澤友作総監督
GTワールドチャレンジ・アジア第5ラウンド岡山 レース前にグリッドを彩ったMZ SUPERCARのクルマたち

© 株式会社三栄