連載コラム【MLBマニアへの道】第1回:地区優勝一番乗り ブレーブスの強さに迫る

写真:今季地区優勝一番乗りのブレーブス

9月13日(日本時間14日)、敵地で同地区ライバルのフィリーズを破ったブレーブスは、今季地区優勝一番乗りを飾った。ブレーブスはこれで6年連続の地区優勝。まさに黄金期と称すべき強さだが、今季のブレーブスは例年以上の強さを誇っている。

特筆すべきはその打線の破壊力だ。歴史的シーズンを送っているMVP最有力候補ロナルド・アクーニャJr.や現在二冠王のマット・オルソンを筆頭に、オールスター級の選手がずらりと並ぶ。実際に今夏のオールスターには捕手のショーン・マーフィー、一塁手のオルソン、二塁手のオジー・オルビーズ、三塁手のオースティン・ライリー、遊撃手のオーランド・アルシア、外野手のアクーニャJr.ら6人もの野手が選出されたほどだ。

スターぞろいの打線は、ここまで146試合で282本塁打を放っている。MLB記録は2019年ツインズが記録した307本。当時のツインズが1試合あたり約1.895本なのに対し、今季のブレーブスは約1.932本とツインズを上回るペースで本塁打を量産しており、残り16試合で新記録を樹立する可能性は十分にある。さらにブレーブスは7人が20本塁打以上、うち4人が30本以上を記録している。オルソンら一部の強打者が量産しているだけではなく、打線全体がどこからでも本塁打を打てる厚みを備えているのだ。

もちろんこの打線の魅力は長打力だけではない。以下は、ここまでのチーム打撃成績とMLB全体での順位だ。以下の数字からわかる通り、打撃力においては隙のないMLB最強の打線と言える。

852得点(1位)
打率.275(1位)
282本塁打(1位)
出塁率.343(1位)
長打率.501(1位)
OPS.844(1位)
117盗塁(9位)
*日本時間15日時点

また、この打線のもう一つの特徴が送りバントをしないことだ。送りバントの有用性について疑問が呈されるようになって久しいが、MLBでも僅差の場面などいまだ活用される場面がある。今季最多のダイヤモンドバックスでも30個とそれほど多いわけではないが、ほとんど送りバントをしないチームというのは珍しい。今季のブレーブスはわずか2個でMLB最少。昨年はシーズンを通して1個しかなく、直近2シーズンで3個とその少なさは徹底している。これは、どんな場面でも打ったほうが点が入るという確信を持てるほどの打線を有しているからだろう。

加えて、野手に長期離脱者が出ていないのも見逃せない。ブレーブスはなんと8人もの野手が規定打席に到達している。ポジション別で見てみると規定到達していないのは捕手だけだが、これはマーフィーとトラビス・ダーノーを併用していることも影響している。もちろん短期的な離脱はあるが、休養を挟みながらもスタメンをほとんど固定できるのが強さの秘訣だ。

しかし、野球というのは打てば勝てるというほど単純なものではない。最強の打線を有していても、投手力に問題があれば優勝まではたどり着けない。ブレーブスは投手力でもリーグ有数のパフォーマンスを発揮している。だが、打線ほど順風満帆というわけではない。投手陣には故障者が何人も出ているからだ。

先発投手で序盤から活躍し続けているのが、スペンサー・ストライダー、ブライス・エルダー、チャーリー・モートンの三本柱だ。ストライダーは勝利数と奪三振数の二冠王であり、サイ・ヤング賞候補にも名前が挙がる。防御率がそれほどよくないので実際に受賞する可能性は低いが、好調時は手を付けられない支配的な投手だ。打たせて取る2年目の若手エルダー、今なお衰えを見せない39歳の大ベテランのモートンも頼もしい存在だが、本来ならここにエースのマックス・フリード、昨年21勝のカイル・ライトらもそろっているはずだった。

フリードとライトはともに5月頃に故障離脱。フリードは8月に復帰してエースとして君臨しているが、9月に復帰したばかりのライトはまだ本調子ではなさそうだ。先発ローテーションの穴を埋めるべく様々な投手を試したブレーブスは、今季16人もの投手を先発起用している。もちろんブルペンデーなどで先発したリリーフ投手も含まれているが、この16人という数字はMLB全体で5番目の多さだ。

そうした先発ローテーションに苦しんだ事情があり、ブレーブスの先発防御率4.14はMLB全体で11位と特筆するほど高いわけではない。ただ、ブルペン防御率3.54は全体4位、ナ・リーグでは1位と非常に優秀だ。その最大の強みは高い奪三振力と破綻しない制球力にあり、ブルペンのK/BB(奪三振数を四球数で割った指標)は3.23とMLBトップの数値を記録している。

守護神を務めるライセル・イグレシアスは肩の故障で出遅れたが、5月に復帰してからここまで29セーブを記録。また、最近ではシーズン途中に加入したピアース・ジョンソンの活躍も見逃せない。今季ロッキーズでプレーしていたジョンソンは43試合に登板し防御率6.00と、打者有利の本拠地クアーズ・フィールドの影響もあってか近年ワーストのパフォーマンスだった。しかしブレーブスが彼を獲得して以降は19試合で防御率0.49と変貌。もともと高かった奪三振力はそのままに制球力が改善されている。移籍したことで、ブレーブスブルペンの強みがそのまま落とし込まれた形だ。

MLB最高の打線に加え、投手力も高い今季のブレーブスはすでに球団史に残るシーズンとなっているが、さらなる記録更新の可能性もある。これまでのシーズン最多勝利数の球団記録は1998年の106勝。現在96勝のため、残り16試合で11勝すれば球団新記録達成となる。

データサイト『FanGraphs』では、ブレーブスのワールドシリーズ優勝確率を29.9%と算出している。一つのチームのトーナメント優勝確率としてはあまりにも高い数字だが、投打ともに大きな隙のないブレーブスが負けるところもなかなか想像できない。しかし、2021年のポストシーズンでは、他ならぬブレーブスがレギュラーシーズンで最も勝率が低かったにもかかわらず下剋上でリングを勝ち取った。短期決戦はもはや別物。これほど強さを見せているチームでも敗退する可能性は十分にある。

今秋のポストシーズンを制することができるかどうかはわからないが、この王朝はまだまだ続きそうだ。アクーニャJr.、オルソンら主力野手の多くを長期契約で囲い込むことに成功している。総額2億ドルを超える契約を結んでいるのはライリーのみで、1億ドル以下のお買い得契約も多い。そうしたコストパフォーマンスに優れた契約が多いのは生え抜き選手やトレードで獲得した選手とFA前に契約延長を結ぶからだ。このブレーブスの方針は一貫しており、今のところは大成功している。もちろん5年後も彼らが活躍している保証はないが、20代の若い主力選手たちを長期的にチームのコアとして保有できる。今のブレーブスのチームづくりは、MLBにおける理想形の一つと言えるのかもしれない。

文=Felix

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