雷の電気は使える? NTT関連機関が研究中 将来、雷でLRTが走る日が来るかも…

 厳しい残暑が続く栃木県内。9月に入っても本県の夏の風物詩「雷」は健在で、荒々しい雷鳴を響かせている。「空から降り注ぐ“天然の電気”を使えたら」と思う人もいるかもしれない。実はNTTの研究所で、空にドローンを飛ばして雷のエネルギーを活用しようとする研究が進んでいる。まだ実験段階だが、いずれは落雷を誘導して得たエネルギーを有効活用したい考えという。雷のエネルギーをまちおこしに使える可能性を秘めた技術で、研究者は「雷の多い栃木県でも実験できたら」と望んでいる。

地上に放たれる稲妻。雷は天然の電気エネルギーだ=宇都宮市内

 宇都宮地方気象台によると、栃木県は全国有数の雷県で、特に夏は多い。気象情報官の中根秀行(なかねひでゆき)さん(56)は「太平洋から吹く風が、県内を北から西に連なる山の斜面に沿って上昇し、雷を起こす積乱雲を発達させる。上空では西寄りの風が吹いており、宇都宮など平地に雷雲が移動してくる」と解説する。夏は内陸部で空気が暖められやすいことも要因のようだ。

雷日数は東京の約6倍

 ちなみに宇都宮で今年、雷が観測された日数は7月が12日、8月が20日だった。これが東京では、それぞれ2日と3日しかない。

 落雷1回当たりの電気量はどのくらいだろうか。300~3千キロワット時と推測する研究者もいる。一般家庭なら、1カ月から数カ月分の電気量に相当する。こうした雷を人工的に誘導しようと研究しているのが、NTT宇宙環境エネルギー研究所(東京都武蔵野市)だ。NTTの通信機器を落雷から守ることから始まった研究で、研究チーム主任研究員の長尾篤(ながおあつし)さん(36)は「誘導した落雷から得たエネルギーを有効活用したい」と話す。

 仕組みはこうだ。雷はどこに落ちるか分からないところに避雷対策の難しさがある。どこに落ちるか分からないなら、捕まえにいけばいい-。逆転の発想で生まれた手法は、ドローンを空に飛ばし落雷を誘うターゲットにする。ドローンにはワイヤが取り付けられており、落とした雷の電流はワイヤを通したり、放電したりして海面や地上の避雷塔といった安全な場所に流す。いわば、空飛ぶ避雷針。どうせならキャッチした電気を捨てずに有効活用しよう-。そんな研究だ。

 ただ課題も多い。雷は一瞬のうちに大きな電流が流れるため「既存の蓄電池では直接、充電できない」と長尾さん。別のエネルギーに変換して蓄える必要があり、注目するのが「圧縮空気エネルギー貯蔵」という手法だ。

雷の力を風に変えろ!

 具体的には、雷の電流によって発生する電磁力で、金属タンク内の空気を圧縮、貯蔵する。浮輪の栓のようにタンクを開栓すると勢いよく風が吹き出すため、その風でタービンを回して発電する。雷の電気を直接蓄えるのではなく、雷の力を空気を圧縮する力に変え、その空気が起こす風で発電するイメージだ。

研究のイメージ(NTTのYouTube公式チャンネルから)

 実験は現在、人や建物への被害が出ないよう、日本海側で冬の雷を対象に洋上で始めたばかり。いずれは東京など都市部の落雷を防ぐため、夏の内陸型の雷で実験を重ねたいという。長尾さんは「その時に、栃木県は候補地になる」と熱いまなざしを向ける。

 実用化されても、本県が全国有数のエネルギー県になれるほど雷の電気量は多くない。ただ「市役所など公共施設の夏の電気なら雷で賄えるかもしれない」(長尾さん)。そんな可能性を秘めているという。

 例えば、ごみ焼却場で発電した電気で走る、次世代型路面電車(LRT)の宇都宮芳賀ライトレール線。夏季限定で雷の力で発電した電気で走る-。こんな宇都宮らしいまちおこしも夢物語ではなさそうだ。

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