「頂上は一つだから迷わない 下りの方が怖い」山のハイキングに潜むリスク 富士山 小学生8人“一時遭難”【下】

9月1日、静岡市立西豊田小学校の5年生8人が富士山を下山中に一時遭難した事案では、救助された8人以外にも、道に迷ったと感じた児童が複数いたことが分かっている。

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これからの季節も手軽に自然を楽しめるハイキングコースに潜むリスクとは。富士山での自然体験学習に詳しいガイドや識者は「上るより下る方が迷いやすく、けがもしやすい」と注意を呼び掛ける。

<全2回(#1/#2)のうちの2回目>

8人以外も「迷った」

「班全員で森みたいなところに入った。だんだん列がのびて班がばらばらになった」。当日参加していた女子児童が振り返る。「足が止まるとすごく疲れそうだったから、とりあえず先生について行ったら、道を歩いているのか歩いていないのか分からなくなり、迷ってしまった」

男子児童もクラスメートとはぐれそうになったと話す。「水を飲んでいる間に、木のせいで前を歩いている人が見えなくなる」。途中、歩道の目印として頼りにしていたピンク色のリボンが途絶えて「道らしき道」がなくなり、「どこにいるか分からない」感覚だったという。

西豊田小の児童が歩いたのは、富士宮口5合目から宝永第二火口縁を経て、水ヶ塚公園駐車場に下りる「須山口登山歩道」。全長8キロ近い道のりだ。

2人の児童が「一時道が分からなくなった」と口をそろえたのは、ルート後半の分岐「須山上り一合五勺」を過ぎた辺り。

上るより怖い下山

当時西豊田小を先頭で引率した登山ガイド加茂好清さんは「頂上は一つだから迷わない。逆に下りの向かう先は360度。下りの方が怖い」と打ち明ける。

地図にない獣道や踏み跡もある。「下りでいったんルートを外れると、離れていく一方。道が分からなくなれば、分かる場所(原点)へ戻るのが鉄則だが、体力を消耗している時に迷えば再び上って原点へ戻ろうと判断するのは難しい」

学校は当初、5クラス約150人の児童が1列にまとまってゴールへたどり着くと想定。下山時はガイド3人と教員9人が引率した。しかし、想定は序盤から崩れた。下るにつれて列の間隔はのび、ガイドと教員の目が行き届かなくなったところで8人がルートを外れ、遭難したとみられている。

では、150人もの児童が安全に下るにはどうすればよかったのか。オリエンテーリング第一人者で小学校長の経験もある静岡大教育学部の村越真教授によると、「行動を共にする一つの集団に1人のガイドが基本」。班ごとにペース配分しながら歩くなら班に1人、クラスごとに進むならクラスに1人といった具合だ。先頭にガイド、クラスの後尾には担任がつく。先頭は常に後方を把握しながら歩き、後方がばらけたら止まって待つことを繰り返しながら進む。

分岐などの要所要所では班ごとに人数確認をする。クラス全員を数えようとすると数え間違いもあり時間もかかる。児童が「班員はそろっているか」と声を掛け合って確認するといい。

ガイドと教員が児童の行動を厳密に管理できるなら、今回のように50人にガイド1人という手もあるが、「ガイド1人と教員1人が協働して掌握できるのは1クラス(30~40人)が限度」と指摘する。仮にガイド1人なら15人が限度という。

児童に事前指導、ガイドと意思疎通を

山を歩く前の教育も欠かせない。児童に「道に迷わないためにはどうしたらいいか」と尋ねると、大抵は「頑張って前の人についていく」と答えるが、正解ではない。「ガイドさん、待ってください」「遅れている友達がいるからみんなで待とう」と声を掛け合うよう児童に教えておくことで、ガイドと教員は集団を統率しやすくなり、安全なハイキングにつながる。保護者へも山のリスクと集団行動のルールを説明し、家庭で話し合ってもらうことで、児童の安全意識はさらに高まる。「学校は行事を計画する以上、児童への事前指導も含めて教育だと認識してほしい」

自然体験学習は学校から委託を受けた団体が計画を立てるケースもあるが、今回は学校側が計画し、あらかじめ「ガイドは3人」と決めていた。旅行会社を通じて西豊田小のガイドを請け負った団体の代表は「150人に3人では少なすぎる」と旅行会社に再考を促したというが、ガイド側の危機感は、学校へ伝わっていなかったようだ。

西豊田小の宮川力校長は「ガイド側から3人では少ないと言われたかどうかは把握していない。3人で十分と判断した学校側に責任がある。事前にガイドと、下山の注意点や引率者の役割分担を共有しておくべきだった」と釈明した。

旅行会社とガイドにとって、学校は「お客さん」の立場。村越教授は「学校が主導するなら、教員が積極的にガイドの意見を聞くべきだ。児童の一時遭難は、学校側がガイドの知見と力量を十分に活用できなかった結果起こったといえる」と指摘する。

<全2回(#1/#2)のうちの2回目>

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