「ガイドは3人で足りていると考えた」“150人が一列で下山”崩れた想定 富士山 小学生8人“一時遭難”【上】

静岡市立西豊田小学校の5年生8人が9月1日、自然体験学習の一環で富士山をハイキング中に一時ルートを外れて遭難した。日暮れまでに全員が救助され大きなけがはなかったが、発見が遅れれば命が危ぶまれる事態だった。なぜ起きたのか。学校と警察、参加していた児童らへの取材を基に、当時引率した登山ガイドの案内で現場を歩き、検証した。

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見渡す限りに広がる樹林。遠目に鹿が横切った。記者がこの場所を訪れたのは日曜日の午後4時だが、周りに人影はない。一時遭難した8人のうち4人は、日暮れ前の午後6時すぎ、この付近で救助された。

<全2回(#1/#2)のうちの1回目>

「小学生はいますか」

「小学生いますか」。山岳救助隊が声を上げながら捜索していたところ応答があり、発見につながった。関係者によるとその時、児童はほっとした様子で涙を流したという。

約150人の児童は、午前11時ごろ富士宮口5合目を出発。宝永第二火口縁で弁当を食べ、水ヶ塚公園駐車場へ向かった。

午後3時20分、先頭が駐車場に到着。その直前の3時すぎ、別の児童4人が「道に迷った」と自らのスマホで110番通報した。約1時間15分後、引率していたガイドの1人が4人を発見。午後6時前に駐車場に帰着した。

午後5時ごろ、点呼でさらに4人が行方不明であることが分かり、午後6時すぎに森の中で山岳救助隊に発見されたという流れだ。

「150人が1列で下山」崩れた想定

学校は、5クラス約150人がまとまって1列に並んで歩くと想定していた。
「ガイドは3人で足りていると考えた。(担任以外の)級外教員が列を行き来しながら、ペースが遅い児童に対応する予定だった」と宮川力校長。その想定は、宝永第二火口縁で昼食を取り、下山を始めた直後に崩れ始めた。

当時、児童の先頭を引率していたガイド加茂好清さんが振り返る。「体力差がある。元気な子は走って、慎重な子はゆっくり。ここからばらけ始めた」ルートの中ほどにある分岐「御殿庭下」。加茂さんらガイドは、初めに遭難した児童4人は、ここで道を間違えた可能性が高いとみている。

日暮れ前に発見された児童4人が迷ったとみられるのが、ルート後半の分岐「須山上り一合五勺」。

この分岐からゴールの駐車場に向かうとまもなく、突如道が途絶えたと感じる場所があった。加茂さんは「4人はここまで来て道がないと思い分岐点へ引き返し、ルートを外れた可能性がある」とみる。

「分岐で道が分からなくなったら座って待ってて、最後尾のガイドらが後ろから必ず来るからと。今回の場合はそれをあらかじめ全員に伝えていれば、8人が遭難することはなかった」と悔やんだ。

学校「計画、引率に不備」

西豊田小は当初、別のルートでの下山を予定していた。水ヶ塚公園駐車場ではなく高鉢駐車場に向かうルートだ。

6月、教員はガイドと共に下見に出掛けた。高鉢駐車場のトイレが故障中と知り、7月下旬、水ヶ塚公園駐車場に向かうルートへの変更を決定。夏休み期間中に教員2人が下見で歩いたという。

夏休み明けの8月下旬、教員は5年生にルートの変更を伝えた。児童が当日持ち歩く「しおり」の行程表は差し替えず、旅行日程を事前に把握する立場にある静岡市教育委員会と保護者へも変更を伝えていなかった。

自然体験学習とリスクマネジメントに詳しい静岡大の村越真教授は、「ルールに則って市教委に報告すべきだった」としながらも、「ハイキングのルートは天候などに応じて事前に変わることはよくある。変更自体が遭難に直結したわけではない」とみている。

学校によると、5年生の1泊2日の自然体験教室は2020年度まで、静岡市葵区の井川で行っていた。大雨が降ると行き来が難しくなるなどの理由で、2021年度以降は富士宮市の朝霧を拠点に実施。富士山ハイキングは今回が初めてだった。

遭難事案を受けて同校は9月2日と9日に保護者説明会を開いた。保護者からハイキングの目的を問われた校長は、「自然の美しさ、厳しさに出会ってほしいと考えた」と答えた。

水ヶ塚公園駐車場へ向かう「須山口登山歩道」は、下るにつれて樹林や草花の様相が刻々と変化する。多様な昆虫に出会え、鳥のさえずりも聞こえる。ゆとりをもって歩けば、高山ならではの豊かな自然を楽しめる。

一方、足元には大小の尖った石や岩、木の根があり、記者は何度も滑ったりつまづいたりして転びそうになった。足の疲労も積み重なる。山に慣れていない人にとっては、歩くだけで精一杯かもしれない。午後になれば、人とすれ違うこともほとんどなくなる。道に迷った児童が感じた不安は計り知れない。

校長は保護者を前に、「計画、引率に不備があり、不安や恐怖を感じたお子様、保護者の皆さまに深くお詫びします」と陳謝した。

<全2回(#1/#2)のうちの1回目>

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