天のほしいままなり

 夏に起きることが多い「雷」は夏の季語だが、「稲妻」になると秋の季語に変わる。天からの電光が稲を実らせる。そう信じられてきたことと関係があるらしい▲〈稲妻のほしいままなり明日あるなり〉。稲妻が好き放題に暴れるように見えたのだろう。石田波郷は“明日への力”が満ちてくるような雷の一句を残している。災害を引き起こさないぶんには、稲だけでなく、人にも生命力を宿す効果が稲妻にはあるらしい▲おととい朝、県南部で鳴り響いた稲妻は人に力を宿すというよりも、猛烈な雨を伴って人に恐ろしさを与えた。積乱雲が連なって同じ所に長い時間、猛烈な雨をもたらす「線状降水帯」が発生し、1時間に100ミリを超える雨を観測した所もある▲それが「2日連続」となれば、天が狙い澄ましたようにも思えてくる。きのうは県北部に線状降水帯が発生し、平戸市や松浦市などを猛烈な雨が襲った。警戒が続く▲夏は記録的な猛暑に悩まされ、初秋は初秋で記録的な大雨が襲う。台風の季節はこれからというのに、天は〈ほしいまま〉の荒れ放題が続いている▲夏から秋へと移ろうような、夏の名残がある秋空を「行(ゆ)き合いの空」という。例年ならば、その空に〈明日あるなり〉の力をもらう頃だろう。穏やかで澄んだ行き合いの青空を、と天を仰ぐ。(徹)

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