犬が大好きな「僕」から届いた手紙…つづられた劣悪繁殖場への怒りと決意【杉本彩のEva通信】

「NO PETSHOP 生体販売反対」2023版啓発ポスター・チラシ

劣悪な環境で約1,000頭もの犬の繁殖を続けていた元代表と、従業員の男による動物虐待事件は、このコラムでも度々取り上げてきた。繁殖業者「アニマル桃太郎」の施設内で、獣医師免許のない代表と従業員が、無麻酔で出産間近の妊娠犬の腹をメスで裂き、仔犬を取り出していたという動物虐待事件だ。元代表は、動物愛護法違反容疑で2021年11月に逮捕され、現在も公判中である。私たちEvaは刑事告発して終わりではなく、今まで行われてきた5回の公判を長野地裁松本支部ですべて傍聴し、その内容や様子をレポートにして公開している。また、YouTube「Evaチャンネル」でも配信している。

私たちと同じように、この裁判の成り行きに注目している人は大変多く、未だにいろんな方からご連絡をいただいている。「アニマル桃太郎」で繁殖した犬をペットショップで購入した人や元代表の逮捕後、ここにいた繁殖犬の里親になった人からもお便りをいただく。アニマル桃太郎で繁殖した犬をペットショップから迎えたある方は、最初から足に違和感があったが、ペットショップの店員から「大丈夫ですよ」と言われ購入したそうだ。しかし、半年程で症状がどんどん悪化し、足に力が入らない、吐き戻してしまうというさまざまな症状が起こり、病院に通ったが約1歳2ヶ月で亡くなってしまった。治療してもまったく良くなることはなかったという。劣悪な環境の中、ずさんな繁殖で生まれた子はこのような症状でずっと苦しみ続け、たとえ繁殖事業を廃業したとしても、虐待はずっと終わらないことを実感されたそうだ。

また、ある小学生と思われる人からもこんなお手紙をいただいた。難しい表現が多いので、誰かの添削をうけたものなのか、子どものありのままの言葉なのかは不明だが、手紙にはこう綴られていた

「長野県松本市のブリーダーが逮捕されました。獣医師免許を持たない社長が、何十年間もお母さん犬を無麻酔で帝王切開をするという、信じ難いことをしてきたそうです。1,000頭近くの犬が身動きできないほどに押し込められて、ケージを出る時は手術をされる時だけ。あまりの痛みに気絶をする子もいたと聞いて、僕は強い憤りを感じました。 僕は自分が辛い時に、そっと寄りそってくれる犬が大好きです。罪のない犬たちがこんなに酷い目にあうなんて、胸が張り裂けそうです。世の中にはこういった虐待が横行しているのに、何もできない自分に腹が立ちました。この非人道的行為を保健所は問題視せず放置、事態がやっと動いたのはEvaの告発です」

繁殖場から保護されたパグの里親を募集していると知ったお手紙の小学生は、そこに会いに行ったという。手紙はさらにこう続いた。

「お腹に繰り返し受けた手術の痕があり、ブルブル震えて逃げ回り、抱っこするとパニックを起こしました。その子がどんな苦痛を味わってきたか想像を絶しました。僕は絶対に大切にするからと約束し、家族に迎えることにしました。その子を毎日なでてあげて、もう大丈夫だよ、安心してねと言ってあげます。抱っこすると過呼吸になってしまうので、子守唄を歌ってあげます。僕は善意のバトンに着目しました。救出されても獣医師の手当がなければ命を救えません。だから僕は影響力のある獣医師になって命を救いながら、『動物は物じゃない、命です』と伝え世の中を変えたいです。これ以上、不幸な犬が増えませんように」 

手紙の最後に綴られた思いは、将来の夢というより、決意のように力強く、その痛みに寄り添う溢れんばかりの愛と、そして悲しみと怒りが伝わってきた。

改めて思うのは、たとえ逮捕され廃業し、裁判が始まっても、それで終わりではないということだ。今もトラウマと虐待の後遺症に苦しむ犬たちがいる。そして、そんな傷ついた犬たちを助けたいと、その命と向き合っている里親さんがいる。命を引き受けた日から、その苦しみを犬と一緒に乗り越えるための戦いが始まるのだ。この事件は、広範囲に渡ってその被害と影響を受けている。だが公判での被告の様子を見ていると、そんなことには微塵も考えが及んでいないようだ。

動物の命を非道に搾取し続け、詐欺同然の商売で利益を貪る悪質繁殖屋。大量生産、大量流通が支えるペットショップの生体展示販売は、これらの犠牲の上に成り立っていることを改めて伝えたい。人も動物も被害にあわないためには、この非道な商売を一刻も早く終わらせる必要がある。

今年も9月20日から始まる動物愛護週間に向けて、Evaは啓発チラシとポスターの無償配布をスタートした。皆様にもぜひ配布にご協力いただきたい。

「もうやめよう、家族の命の大量生産」

これをスローガンに、ペットショップでの生体販売反対を真っ向から訴えていくつもりだ。 (Eva代表理事 杉本彩)

⇒「杉本彩のEva通信」をもっと読む

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

  × × ×

 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

© 株式会社福井新聞社