闘えば闘うだけ…妻子3人奪われた男性、積もる苦しさ 最高裁へ「最後までやりきる」 熊谷6人殺害から8年

二審の判決文を読む加藤裕希さん=7日午前、埼玉県熊谷市

 2015年9月、埼玉県熊谷市でペルー国籍の男=強盗殺人罪などで無期懲役=に男女6人が殺害された事件は今月で8年が経過した。妻子3人を殺害された遺族の加藤裕希さん(50)は、県(県警)を相手取り国家賠償請求訴訟を提起しているが、6月の東京高裁判決は一審さいたま地裁判断を支持、訴えを退けた。「闘えば闘うだけ苦しさが積もる。でもここまで来たらやるしかない」。3人の命日を前に取材に応じた加藤さんは、最高裁を見据えて自らを奮い立たせるように語った。

 加藤さんらが県警の不備として指摘しているのは、同月14日に起きた殺人事件の参考人として全国手配された男が、前日の13日に熊谷署に任意同行されたのち、行方をくらませていたことを県警が周辺住民などに知らせなかった点。妻の加藤美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=いずれも当時=は逃走から3日後の16日に殺害された。

 昨年4月のさいたま地裁判決は「県警に情報提供の義務があったと認められない」として訴えを退け、今年6月に開かれた二審の東京高裁判決も地裁判決を支持。加藤さんらは7月7日付で上告した。

 今月5日には上告審を求める理由書を最高裁に提出。同書によると、原判決では「屋外の通り魔事件であれば1件発生しただけで連続発生を想定すべきだが、屋内事件であれば2件続けて発生しない限り連続発生を想定できない」という県警幹部の主張をうのみにしていると指摘している。

 8日に開いた会見で、弁護人の高橋正人弁護士らは「(同理論を)認めた判例も法律上の文献も皆無」と、判決理由の不備などを訴えた。

 「これ以上闘うことに意味はあるのか」。二審判決から1カ月半の間、加藤さんは自分に問い続けたという。「今回(二審)の判決は、刑事(裁判)を含めて積もり積もって、今までで一番心にきた」と振り返り、「敗訴」の2文字が重くのしかかる胸中を語った。

 男が署から逃走した事実などについて、なぜ県警は犯罪に関する情報発信システムで注意喚起をしなかったのか。意図的に隠したい事情があったのではないかという疑念を事件直後から持ち続けているが、原判決では言及されず「最高裁でもう一度考え直してほしい」と訴える。

 事件から8年。「3人が今でも生きていたらどうなっていたのか。願うことなら話したい」と思いを口にした上で、「心身共に限界に近いが、3人のためにも今まで以上に苦しい思いをすることを覚悟しなくてはならない。最後までやりきろうと思う」と静かに力を込めた。

© 株式会社埼玉新聞社